大判例

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大阪地方裁判所 昭和51年(ヨ)175号 判決

申請人

福岡三郎

外一〇一名

申請人ら訴訟代理人弁護士

松本健男

西川雅偉

桜井健雄

在間秀和

申請人前田正夫、同山田茂勇、同森脇顯次訴訟代理人弁護士

里見和夫

正木孝明

松本健男訴訟復代理人弁護士

井上英昭

山内良治

太田小夜子

被申請人

松原市

右代表者市長

土橋忠昭

右訴訟代理人弁護士

俵正市

苅野年彦

寺内則雄

被申請人松原市指定代理人

中野良夫

外一五名

被申請人

大阪府

右代表者知事

岸昌

右訴訟代理人弁護士

俵正市

苅野年彦

寺内則雄

被申請人大阪府指定代理人

筒井康雄

外八名

主文

1  申請人らの申請をいずれも却下する。

2  申請費用は、申請人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一申請の趣旨

1  被申請人松原市(以下「松原市」という。)は、自らもしくは第三者をして別紙物件目録記載の土地上に、松原市ゴミ焼却場(以下「新清掃工場)という。)を建設ならびに右建設のための前記各土地(すでに買収済の土地を除く。)の買収等の建設準備行為をしてはならない。

2  被申請人大阪府(以下「大阪府」という。)は、松原市のなす右ゴミ焼却場建設のための補助金の交付等協力する一切の行為をしてはならない。

二申請の趣旨に対する答弁(被申請人ら)

主文第1項と同旨。

第二  当事者の主張

一申請の理由

1  当事者

松原市は、別紙物件目録記載の土地(以下「本件予定地」という。)上に松原市ゴミ焼却場(新清掃工場)を建設する事業の主体であり、大阪府は右新清掃工場建設につきその代表者知事が都市計画法上の承認権者の地位にあり、また建設のための補助金等を交付する主体である。

申請人らはいずれも本件予定地の近傍(本件予定地からの距離一〇〇ないし五三〇m以内)に居住している者である。

また申請人番号1、3、4、5、7、8、9、13、16、18、19、21、22、23、24、26、27、28、39、41、42、43、44、47、48、49、50、54、55、57、58、59、60、63、64、65、67、69、71、72、73、79、83、84、87、92、97、99、100、102の者は、本件予定地周辺一km以内に、自作地、小作地、保有田のいずれかを所有し、土地耕作権を有している。

2  新清掃工場建設の違法性

新清掃工場が操業を開始した場合は、以下に述べるとおり被害発生の蓋然性が高い。

(一) 環境アセスメントの不十分性

(1) 環境アセスメントの定義、目的

環境アセスメントとは、我が国では環境影響(事前)評価と呼ばれ、一つの事業が周辺環境に及ぼす悪影響を事前に評価し、もしそれが社会として容認し得ない程度のものであれば、その計画を社会が変更あるいは中止させるところの調査研究及び評価決定の総体であるとされている。

そして、この環境アセスメントの目的は、開発しようとする事業の計画過程に対し、これを事前に総合的に検討評価する中で、事業による悪影響がほとんどなくなるような方策を見出し、事業計画を手直しすることにより環境汚染の発生を防止せんとすることにある。

従つて、一つの事業計画の実施に先立ちなされるべき環境アセスメントが全くなされなかつたり、見せ掛けだけの不十分なものであつた場合には、公害発生予防、被害発生予防の方策が十分なされないまま事業開発が推進されることになるから、これによつて、公害が発生し、多数住民の生命健康に多大の被害をもたらす蓋然性がきわめて高いと言わねばならない。

(2) 環境アセスメントの必要要件

十分な環境アセスメントというためには、

① 公害発生が予想されるところの事業の内容を明確にすること。

② 当該事業計画の実施により発生が予想されるところの公害が防止できるか否かの検討のための具体的調査項目、調査方法の検討をすること。

右検討により決定されたところに従つた調査の実施をすること。

③ 右調査結果を解析し、解析した結果に基づいて、当該事業が現実に稼働したときにどのような公害が発生するか、ないし発生しないかを予測すること。

④ 右予測結果に基づいて、当該事業の実行、一部修正あるいは中止を判断すること。

⑤ 事業の悪影響を受ける可能性の大きい周辺住民を右調査研究に参加させ、その意向を決定において尊重すること。

の要件が必要不可欠である。

本件において実施されるべき環境アセスメントの具体的内容(大気汚染に限定して述べる。)は、

① 本件予定地周辺の地形調査及び気象観測

② 現地での拡散実験

③ 現地の煙流実験

④ 現地の地形モデルによる風洞実験

の四つである。

(3) 松原市の行つた環境アセスメント

松原市は右四つの具体的内容のうち一応気象観測、風洞実験を行つているが、拡散実験、煙流実験を行つていない。

しかし、松原市の行つた気象観測は、観測点が地上一〇mで、周辺建物の影響を否定できないこと、観測点が一か所にとどまること、温度勾配に関する観測が欠けていること等、本件予定地周辺の空気の流れ、乱れ具合を正確に把握するには十分とはいえない。

また、拡散実験が必要であるとされているのは、数学的計算式(拡散式)は地表やごく地表に近い高さの煙源による平坦地の小規模拡散実験結果に基礎を置いており、逆転層や地形の影響は考慮されていないため、複雑な地形・気象条件のもとにおいては、拡散式により拡散状況を推定することが非常に困難であり、複雑な地形及び複雑な気象を有する場合における拡散の推定をするには、現地における拡散実験をするほかはないからであるが、松原市は、環境アセスメントとして最も重要である拡散実験を一度も行わず、計算式データをもとに種々の拡散計算を行つているのみである。

更に松原市の行つた風洞実験は、次のとおり重要な点において不完全不十分なものである。

まず、①地形の設定において、若林町住宅地域の東南部の四分の一弱しか含めていないため、申請人らの住宅地域全体に対する影響を把握することができず、住宅地域西方、及び西南方の高速道路、東南東方の建物等煙源に影響を与えることが予想される建物、施設が地形モデルから除外されており、空気の流れ、乱れ具合が正確に把握できない。②風向設定について、東と西の二方向しか実験していない。③風速について、六、八及び一〇mしか実験せず、風速の弱い場合の影響把握が出来ない。等、周辺建物による申請人ら住宅地域への影響の有無を把握する上で著しく不完全なものである。

また、風洞実験は拡散実験により得られた情報を基礎として、拡散実験の補完としてなされるべき実験であるにもかかわらず、松原市においては、一度の拡散実験もしないまま、風洞実験のみ実施しているのであるから、そもそも基礎資料を欠いた実験として、環境アセスメントの名に値しないこと当然である。

(4) 結論

以上の通り、松原市の実施したアセスメントは、アセスメントの名に値しない不十分なものであり、新清掃工場が現状のままで建設操業された場合、環境基準を上回る濃度の公害物質により人体が汚染され健康が害される蓋然性は非常に高い。

(二) 予測される環境被害

(1) 大気汚染

(イ) 窒素酸化物

窒素酸化物である一酸化窒素及び二酸化窒素は、物が高温で燃焼するときに、大気中の酸素と窒素が直接反応したり、あるいは、有機窒素化合物が燃焼するときに、空気中の酸素と反応して発生する。

ごみを焼却する際に窒素酸化物は多量に発生する。

窒素酸化物のうち二酸化窒素は、疫学的には〇・〇一〇〜〇・〇三五ppm(二酸化硫黄〇・〇〇五ppmで、その影響はほとんど無視しうる状態)で、こどもの赤血球抵抗性増加、幼若赤血球出現、メトヘモグロビン増加、〇・〇二〜〇・〇三ppm以上(二酸化硫黄年平均値〇・〇〇九ppm〜〇・〇四二ppm、ばいじん年平均値四〇μg/m3〜四一五μg/m3)で二酸化窒素濃度と持続性せき・たんの有症率との関係が見い出され、〇・〇四二ppm(二酸化硫黄〇・〇三五ppm)で、東京男子自治体職員の気管支炎有症率が明らかに増加し、年平均値〇・〇六〜〇・〇八ppm以上(二酸化硫黄年平均値〇・〇一ppm以下、浮遊粉じん年平均値六三〜九六μg/m3)で、年平均値〇・〇三ppmの地域に比べ学童の急性呼吸器疾患罹患率が増加する。

二酸化窒素は、植物に対しても細胞破壊・落葉・光合成の低下等の被害を与え、ソラマメでは、二酸化窒素〇・三ppm、一〇〜一九時間で、クロロフィル含有量の減少が生じ、トマトは〇・一五〜〇・二六ppm、一〇〜二二時間で、葉の下方への屈曲が生じる等、現在の汚染の程度においても、既に生育阻害をもたらしている。

さらに窒素酸化物は、空気中の炭化水素と光化学的反応を起こし、毒性の強い光化学オキシダントを生成し、これによつて光化学スモッグを発生させ、人間の呼吸器系統の機能を破壊し生命に危険を与える。

このように、窒素酸化物は、環境基準値の〇・〇二〜〇・〇三ppm年平均値以下においても、明らかに、健康障害をもたらすのであつて、右に述べた疫学的調査よりすれば本来窒素酸化物の環境基準は年平均値で〇・〇一ppm以下でなければならないことは明らかである。

(ロ) 硫黄酸化物

硫黄酸化物である亜硫酸ガス(二酸化硫黄)、三酸化硫黄は、ごみ中に含まれている硫黄分が燃えたり、あるいは助燃材として重油(平均二%の硫黄が含まれている)を添加することによつて発生する。

硫黄酸化物は、人間の体内に吸収されると、体内の粘膜の水分と反応して、二酸化硫黄は亜硫酸に、三酸化硫黄は硫酸になり気道や肺をおかし、疫学的には〇・〇一ppm(二四時間平均)、粉じん濃度〇・二〜一・一mg/m3で上気道炎患者数が増加し、〇・〇一ppm(年平均)で五五才以上の年齢層の心脈管疾患の罹患率が増加、〇・〇三ppm(年平均)で慢性気管支炎の有症率の明らかな増加が生じ、〇・〇五ppm(三日平均)で死亡者数増加、〇・〇九ppm(一週間)で学童の気道疾患による欠席率は三倍になる。〇・一二ppm(年平均)で慢性気管支炎の有症率二五%(ロンドン・四〇歳以上男子)〇・三ppm(一週間平均)で、ぜんそく患者の発作回数増加、〇・五七ppm(五日間)で心呼吸器疾患者の発生数二・五倍、死亡者数が増加する。

このように、硫黄酸化物の毒性は非常に高く、環境基準の〇・〇四ppm以下の汚染状態にあるときでも、ばいじんが多量にあるときは、健康障害をもたらすのであつて、右に述べた疫学的調査によりすれば本来硫黄酸化物の環境基準は年平均値で〇・〇一ppm以下でなければならないことは明らかである。

(ハ) 塩化水素

塩化水素は、ごみ中に含まれるプラスチックのうち、塩素を多量に含む塩化ビニルが燃焼するときに発生する。

塩化水素は、低濃度であつても長期暴露により目、鼻、気道、肺等の粘膜をおかし、歯を腐蝕させ鼻腔や歯ぐきの出血・潰瘍、視力の低下を招くことから労働環境基準においては五ppmを上限値として瞬時においてもこの数字を上回つてはならないとされている。

塩化水素は、植物に対しても一・五ppmで、葉縁部の壊死等の被害を与え、金属に対しても強い腐蝕作用をもつことは大阪市西淀川工場の煙突の腐蝕状況からも明らかである。

(ニ) ばいじん

ばいじん、即ち、浮遊粒子状物質とは、空気中に浮遊する微細な粒子の総称であるが、環境汚染を論ずる場合は、その粒径が一〇μ以下のものをいう。一〇μを超えるものは、鼻腔や咽喉部に大部分が付着し、たんや鼻くそとして排出されるが、一〇μ以下のものは気道や肺胞に沈着し人間の健康に障害を与えるからである。

ばいじん中には、プラスチックごみの燃焼による炭化水素、プラスチックの重合安定剤たる鉛、カドミウム、耐火レンガ中のクロム、乾電池・体温計中の水銀等有害なさまざまな重金属が含まれている。

ばいじん中の水分は、硫黄酸化物と結合することにより、硫酸ミストとなり、人体の深部気道まではいりこんで、健康障害をひきおこす点においては、硫黄酸化物による害悪を増幅させる役割を果たす。

ばいじんが肺胞に蓄積されると、じん肺となり、息切れ・喘息・心臓障害・体力消耗が生じる。疫学的には、ばいじん年平均〇・一mg/m3(硫黄酸化物日平均〇・〇五ppm以下)で五〜六才学童の感染性呼吸器疾患の罹患率増大、年平均〇・一三mg/m3(硫黄酸化物日平均〇・〇五ppm以下)で学童の下部気道疾患の罹患率上昇及び重症化、年平均〇・一六mg/m3(硫黄酸化物日平均〇・〇四六ppm)で気管支炎・肺ガンとの間に相関が生じ、年平均〇・一八五mg/m3(硫黄酸化物年平均〇・〇三七ppm)でせき・たん・呼吸困難気管支炎の発生率が〇・〇九mg、〇・〇二八ppm地域に比べ高くなり、年平均〇・二mg/m3(硫黄酸化物日平均〇・〇八ppm)で気管支炎による過剰死が生じ、三日平均〇・〇四五八mg/m3(硫黄酸化物年平均〇・〇五ppm)で幼児・ガン患者の死亡率が増加する。

(ホ) ダイオキシン

ダイオキシンは、塩化ビニルなど有機塩素系樹脂を含むプラスチック製品の燃焼によつて発生すると考えられており愛媛大学農学部環境化学研究室の立川涼教授らのグループが、松山市の市営清掃工場など、西日本九か所のごみ焼却場の灰を調査した結果、すべての焼却場からダイオキシンが検出されている。

その致死量は、体重一kg当たり一〇μgといわれ、体内に蓄積すると、ガンを誘発したり、遺伝子に強い影響を与え、先天異常児や、死産の原因となる。

ダイオキシンによる被害発生の予防策について、焼却場からの汚染が明るみに出ている米国などでは既に五年前からその方法を研究しているが、日本では全く防止の対策がとられていないのが実情であり、松原市においても何ら予防手段を講じておらず、ダイオキシンによる被害発生の蓋然性は明らかである。

(ヘ) 無機水銀

水銀には、水俣病の直接の原因となつた非常に毒性の強い有機水銀たるメチル水銀と比較的毒性の弱いとされる無機水銀とがある。無機水銀も都市下水や活性メチル基を含む工場排水と反応して、メチル水銀となつたり、微生物に取り込まれその体内でメチル化されて、毒性の強いメチル水銀となり、これが食物連鎖により、人体に吸収されることになるので、結局有機水銀と同様な健康被害が生じる。

無機水銀は、乾電池や体温計、螢光灯に含まれている水銀がゴミと一緒に焼却されるときに、蒸気となつて発生する。

水銀の発生を完全に防止するためには、乾電池や体温計、螢光灯を分別収集する以外に方法はないが、現在のところ水銀については、大気汚染の規制がないところから、各地方自治体において対応がまちまちであり、松原市は未だ完全な分別収集は行つておらず、水銀対策は全く無策の状態であり、新清掃工場の稼働によつて水銀による被害が発生することは明らかである。

(ト) 複合汚染

以上、窒素酸化物、硫黄酸化物、塩化水素、ばいじん、光化学スモッグ、ダイオキシン、水銀の各物質について、各々の単一体としての環境被害について述べたが、現実においては、すべての物質が同一空間において混在し、相互に影響しあうことになり、さらに自動車の排ガス、工場の排煙等との相乗作用により、予測のつかない被害が生じる危険がある。

(2) 廃水

ゴミ焼却により発生する洗煙廃水、焼却灰冷却水、あるいはゴミピット汚水、洗車汚水は、申請人らの一部が農耕用水として使用している落堀川に放流されることになるが、この廃水には重金属、有機物質が含まれ、申請人らの農耕に悪影響を与えることは明白である。

(3) 悪臭

悪臭は、物質の腐敗によつて生じるものであり、ごみを貯蔵するゴミピット、ごみ運搬車及び排煙が発生源であるが、ごみ運搬車から落下する汚水が、搬入路にしみこむことによる悪臭の発生も無視できない。

悪臭による被害の内容は、まず第一に、不快感であり、健康に対する顕著な被害が生じていないことから、従来はあまり重大視されていなかつた。

しかしながら、悪臭にさらされている間は、人間は絶対に幸福感、解放感を感じることができないという事実よりすれば、悪臭は、人間の幸福追求権を阻害する重大な要素である。

(4) 振動・騒音

振動・騒音は、人体に対しては自律神経・内分泌系に影響を及ぼし、頭痛・吐き気、めまい・心臓がどきどきする等の被害をもたらす。

振動・騒音は、ゴミ運搬車及びゴミ焼却場の破砕機や誘引通風機から発生するが、意外に大きい騒音源は、塩化水素除去装置、ゴミ運搬車の荷台の上げ下げ音、坂の登はん音、ゴミの押しつぶし音であり、前者は八〇ホン程度であり、後三者は二t車ぐらいの小型車が能力一杯にエンジンをふかすことから、直近では九〇ホンにもなる騒音が発生する。ことに、松原市が予定している通路を通るのであれば大和川の堤防を上り下りしなければならず、その際のエンジンの騒音は無視できないものとなる。右の如き騒音発生源について、松原市は、未だ十分な対策を講じている様子がなく、新清掃工場が稼働されたならば振動・騒音による被害が発生する蓋然性は明らかである。

(5) 低周波

低周波は、波長の長い空気振動であり、人間には音としては聞こえない。ゴミ焼却場においては、誘引通風機で送られる空気が通風路を振動させ、通風路は曲りくねつているのが普通で、そのある部分がしばしば共振をおこす。

低周波は、振動・騒音と同様人体に対しては、頭痛・吐き気・めまい・自律神経失調などの被害を与えるが、波長が長いために距離による減衰が望めず、広範囲に影響を与え、また防壁などによる遮断もできず、かつまた、松原市において、低周波による被害を防止するための格別な対策をも講じていないことから新清掃工場が稼動した場合、低周波による健康被害の生じる蓋然性は明らかである。

(6) 交通渋滞・交通事故

新清掃工場へのごみの搬入路として松原市は若林町の玄関口道路である府道大阪羽曳野線の大和川の堤防部分の使用を予定している。

しかしながら、そもそも堤防を道路として使用すること自体に水防上の問題がある上に、府道羽曳野線の大和川堤防部分は従来から西名阪自動車道、阪神高速道路、及び中央環状線から流出してくる自動車をさばききれなかつたところへ、明治橋の老朽化のために、橋上の通行が交互通行になつたことから明治橋から堤防に沿つて若林町の出入口付近まで、毎朝毎夕四ないし五〇〇mの自動車の停滞がつづいている。六年後には近畿自動車道の開通が予定されており、そうなれば、さらに交通量の増大・交通渋滞の激化が予想されるが、そのような事態の中へごみ運搬車が一日のべ一〇〇台以上加われば、若林町の玄関口は完全に交通麻痺し、住民は自動車による出入ができなくなり、生活機能に重大な影響が生ずるのみならず、そもそもごみ運搬車自体も身動きがとれずごみの運搬業務に支障が生ずることは明白である。

さらには、右府道大阪羽曳野線大和川堤防部分は中央環状線の新明治橋、近畿自動車道の第二明治橋等、堤防をまたぐ四本の橋を架橋したために、橋下の堤防部分は通行不能となり、自動車は、一たん堤防の下へ降り、迂回して再び堤防に上るようになつているため、橋下の堤防部分は非常に見通しの悪い、欠陥道路となつていることから、自動車の横転、衝突、通行人との接触等、事故が絶えず、若林町の住民だけで過去三名が交通事故により命を落としている。従つて、乗用車に較べてボディーが高く、通行人や一般の乗用車の見通しを悪くするごみ運搬車が頻繁に通行するようになればさらに交通事故の増加する危険が高まる。

さらに、新明治橋・第二明治橋の下付近は出水時には一m以上水没し、府道大阪羽曳野線を通行することができなくなるためごみ搬入車の通行も困難となり、ごみ清掃事業が停滞することが明らかである。

(7) 浸水時に生ずる被害

本件予定地付近は水没しやすい地域であり、若林町の住民にとつては、遊水地帯としての重要な役割を果たしている。最近においては、台風一〇号により昭和五七年八月一日、八月三日の両日に落堀川が氾濫し、若林町住家の一部が浸水し、本件予定地全域、その周辺及びごみの搬入路と予定されている府道大阪羽曳野線の新明治橋、第二明治橋の下付近の道路が一m以上冠水した。

ごみ焼却場は、ピット壕・燃滓冷却壕などを地下に設置せざるをえず、その投入・投げ出し口は地表面に開設するという構造から、水没した場合は水が侵入し、ごみ残灰等が流出することになり、また府道大阪羽曳野線の交通途絶により、残滓・汚水の搬出も不能となれば、周辺の住家・用水・農地を汚染する危険が高い。未燃ゴミによる汚染もさることながら、ダイオキシン・マンガン・鉛・クロム等を含む残灰流出による土壌汚染は、広範かつ深刻な被害をもたらすことが予想される。

新清掃工場を水害から守るには、予定地に土盛りをしなければならないが、予定地付近は前述の如く、若林町住家の遊水地としての役割を果たしているのであつて、ここが土盛りされれば、浸水の際の水の行き場がなくなり、若林町内の水害は一層激化することは明らかである。

さらに、上流部分の河川改修が行われれば本件予定地付近で水害の増大が予想される。

(8) 若林町の発展阻害

若林町は、西側には高さ八mの松原インターチェンジ、北側は高さ六mの堤防及び大和川、南側は高さ七mの西名阪自動車道路が近隣しており、住家を建てうるような状況ではない。ただ東側の本件予定地付近の地域だけが、若林町が発展しうる唯一の空間である。そうであるからこそ、この部分は市街化調整区域に指定されているのである。にもかかわらず、ごみ焼却場が建設されれば、他の焼却場と同様に類似施設・工場が増加することが予想され、町の唯一の発展空間が奪われ、若林町が、陸の孤島化することは明らかである。

3  被保全権利

新清掃工場の建設稼働により、大気汚染、水質汚染等の環境被害が発生し、憲法一三条、二五条により保障される「人間が健康な生活を維持し、快適な生活を求めるための権利」即ち環境権が侵害され、更には申請人らに健康被害の発生することは極めて明白であり、人格権、耕作権及び所有権(ただし申請人の一部)が侵害される。

しかるに、松原市は建築主体として新清掃工場の建設及び土地買収等の準備行為をしており、また大阪府は松原市に補助金等の交付をなす関係にあり共同して新清掃工場建設のための準備行為をなしており、申請人らは環境権・人格権あるいは申請人らの一部の有する耕作権、土地所有権に基づき、新清掃工場の建設等の差止め請求権を有する。

4  保全の必要性

新清掃工場の建設により、申請人らのみならず、周辺地区の住民に人的物的な被害が発生するであろうことは明白である。健康被害及び環境破壊のおそれに対しては事前の差止め以外に完全な救済はない。

また、松原市は、反対意見を無視し、土地買収等の手続を進めているが、新清掃工場建設には右買収費用等を含め巨額の費用(税金)が必要である。違法な建設行為に税金を支出すること自体避けるべきであるが、仮に新清掃工場が建設されたとしても、操業が困難になることは明白であるから、出費が社会的な損失となることを避けるためにも、現在、建設行為のみならずその準備行為を差止める必要がある。

二松原市の本案前の主張及び申請の理由に対する認否・反論

(本案前の主張)

1 松原市が行う建設準備行為により、申請人らの環境権・人格権・土地耕作権(所有権を含む)等が侵害される可能性は全くないから、右準備行為の差止めを求めることは、主張自体からして訴えの利益がない。

2 また建設工事自体を差止めるためには、建設工事による被害あるいは建物そのものによる被害が受忍限度を越えることが疎明されねばならないが、申請人らはこれらの被害についての主張さえせず、これまた訴えの利益を欠く。

(申請の理由に対する認否)

1 申請の理由1について

松原市の地位は認める。

申請人吉田明男は、昭和六〇年五月一三日、羽曳野市へ転出している。

また、申請人の一部の土地耕作者について主張する田畑が煙突から約一km以内にあることは認めるが、耕作権を有すると称する申請人らのうち、大部分の者は、主張の場所に土地耕作権を有していない。

2 同2(一)(二)は争う。

3 同3は争う。

申請人らは、申請人ら個人に具体的被害が発生する前に環境破壊を阻止するため侵害行為(あるいはそのおそれ)を差止める権利を有するとするものであるが、環境権なる権利自体実定法上の根拠を有せず、その有する権利内容、範囲を特定しえず、従つて侵害の概念さえ確定しえないものであり、到底本件差止め請求の根拠とはなりえないものである。申請人ら主張の憲法一三条、二五条は、個人に私法上の具体的権利を与える根拠たりえないこともまた多言を要しない。

申請人らは、人格権による差止めの根拠を憲法一三条、二五条に求めているが、右条項が私法上個人に具体的権利を付与したものでないことはいうまでもない。

また、右のように人格権を実定法上の根拠のある権利と解釈することには、疑問があるうえに、申請人ら個々人の有する人格権ということであるから、個々人につきいかなる侵害があるのか具体的個別的に主張立証がなければならないが、本件ではそのいずれも存在しない。

4 同4は争う。

新清掃工場の建設については、位置、規模等基本計画が策定されたのみであり、建設着手までには、今後大阪府都市計画審議会、府知事の承認、実施計画による機種選定、松原市議会の請負契約についての承認、実施設計書作成、建築確認申請等の手続が必要であるところ、本件申請は、建設着手までに経るべき手続のはるか以前の段階で提起されたものであり、民訴法七六〇条にいう「著しい損害」が発生していないことはもちろん、将来も発生しえないのであり、加えて、右のとおり本件申請は建築着手のかなり以前の計画段階に対し提起されたものであり、同条の要件とする急迫性もないのであるから、保全の必要性はないというべきである。

また、申請人らを含む住民の救済手段としては、新清掃工場が現実に稼動し、それが排出基準や松原市の計画値を超える汚染物質が排出されないしそのおそれがあるときの操業停止によつても保障されるのに対し、建設及びその準備行為の差止めが認められた場合、老朽の立部工場しかない松原市の衛生行政は極度の混乱をきたすこと必至である。

三松原市の本案の主張

1  新清掃工場建設の目的と必要性

(一) 現清掃工場の老朽化

松原市は、地方自治法二条二項、三項六号及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律六条二項により一般廃棄物を処理する義務を負うところ、昭和四二年建設の松原市立部清掃工場(以下「現工場」という。)において焼却処理をしている。しかし同施設は現在まで一八年間継続使用しているため、建屋の老朽化が進み、焼却炉はもとより諸施設がすでに耐用の限界に達している。しかも同施設の処理能力は二基で五〇tにすぎないところ、稼働時間を延長して操業しているため、更に老朽化が進み、修繕費、改善経費の増加が目立つている。

一方、ごみの組成が現工場建設当時と比較し著しく変化したこと、特にプラスチックごみの増加により、ごみの低位発熱量が高くなり処理の対応ができなくなつてきている。さらに、大阪府が設置を義務付けている塩化水素除去用のガス洗浄集じん装置も、現工場の敷地がわずか二、一四六m2しかなく、四方が道路で囲まれているため、設置できない状況にある。

このように現工場が、①ごみ量の増加・ごみ質の変化に対処できないこと、②不燃・粗大ごみを処理できないこと、③建て替え、増設、拡張が不可能なこと等から松原市のごみ処理は一刻の猶予も許されない段階にあり、新清掃工場を建設稼働することが必要となつている。

(二) 大気汚染物質排出量の削減

一方、現施設が前記のとおり苛酷な条件下で稼働をしいられている現状にあるが、新清掃工場は最新の技術を導入し、現時点における最もきびしい排出基準により稼働する計画であることから、新清掃工場の建設、現施設の廃止により、広域的に環境への影響を十分小さく削減することが可能である。

2  新清掃工場の基本計画の内容

新清掃工場建設に関する松原市の基本計画は次のとおりである。ただし、これはあくまでも基本計画であつて、現実に建設に至るまで何らの変更をも許さないというものではない。

(一) 計画焼却処理量

厚生省の廃棄物処理施設構造指針(以下「構造指針」という。)によると稼働後七年目を目標年次として計画することになつているので、昭和六五年のごみ量については、一般ごみ排出原単位を、松原市の昭和四二年から昭和五三年までの実績値からトレンド法(予測手法の一つで、過去の時間的経過に沿つて変化する現象に関して、過去における各時点のデータを基に一定の法則性を見出し、その傾向を将来に延長して予測する手法。)及びG・M・D・H法(予測手法の一つで、過去の同一時点における他の現象群から対象としている現象を説明しようとする手法。)により、昭和六五年で〇・六七四kg/日・人と予測した。具体的には、ごみ排出量の変動を説明できる要因として市人口、世帯数、実質GNP、市民一人当りの市税、工業出荷額、商店数、住宅床面積、製造事業所数、耕地面積、自動車保有台数を組み合わせた予測と、トレンド法により求めた予測とから、G・M・D・H法により得られた結果の一つを予測値としたものである。

次に人口については、松原市の昭和四二年から昭和五三年までの各年度末人口を用いトレンド法により昭和六五年の人口を一五万七一六九人と予測した。

具体的には、過去の実績値に符合する四つの式を選び、市の社会経済環境から高度成長期のような急激な増加はみられないものの、市街地の進行、職場への交通便の改良、住宅の高層化、生活基盤(下水道、ごみ処理、文化施設等)の改善、改良により、人口の減少、停滞はある程度でおさまり、徐々に増加傾向に向うとの考えに基づいて求めたものである。

以上により、一般ごみ排出原単位、人口から週二回どりの増加分、不燃・粗大ごみ量等を加味して昭和六五年の一日当りの焼却対象ごみ量を一四七tと予測し、月最大変動係数を考慮して計画焼却処理量を一日当り一八〇tとした。

(二) 計画ごみ質と低位発熱量

排煙を処理するに当り重要な要素であるごみ質、低位発熱量について、次のとおり予測した。すなわち、ごみ質につき松原市の昭和四二年から同五四年までのごみの燃焼特性データからトレンド法により同六五年の平均ごみ質を水分四五・七%、可燃分四六・八%、灰分七・五%と、また低位発熱量については、岩井らの式を用いて平均低位発熱量を二、〇〇〇kcal/kg、松原市の昭和五一年八月から同五五年三月までのごみ分析データから最高低位発熱量を二、五〇〇kcal/kg、最低低位発熱量を一、二〇〇kcal/kgと、各々予測した。

(三) ごみ処理方法

ごみ処理は、一般ごみ、粗大ごみ、焼却不適ごみ、不法投棄ごみ、有価物(ビン・カン)の五種類に分別収集を行つたうえ、効率的に処理する予定である。

(1) 焼却炉の型式、規模

焼却炉の型式は、長期安定稼働に対し現在最も実績のある連続燃焼式機械炉とする。

また規模については、稼働率、運転率から九〇t/日炉三基とし、一炉は予備とする。

(2) 破砕設備の型式、規模

破砕設備の型式は、多種類のごみに対応できる回転式とし、五時間で五〇tのごみを処理する規模とする。

(四) 排煙処理方法

排煙は焼却炉→ガス冷却装置(ボイラー)→電気集じん装置→洗煙装置(湿式)→加熱装置をへて煙突から放出する。

排煙処理のため用いる各種設備と、その設定排出濃度(煙突出口)は以下のとおりであり、これら処理装置は、最新鋭の公害防止装置であり、新清掃工場から排出される物質は、大気汚染防止法、大阪府公害防止条例の排出基準を大きく下回る値である。

(1) 排煙処理装置

(イ) 洗煙装置(湿式)

苛性ソーダ溶液などのアルカリ溶液によつて適正な排ガス温度条件において洗浄し、硫黄酸化物及び塩化水素を除去するもので除去効率が非常に高く実績も多い。

(ロ) 電気集じん機

ばいじんを除去する装置で、線状電極を放電極とし、板状電極を集じん極として、この両極間に直流高電圧を加えると集じん極に向つて、コロナ電流が流れることを利用して、ガス中に浮遊するばいじんを帯電させ、集じん極の表面に堆積させるものである。除去効率は集じん板面積、ガス流速、粒子径、ガスの粘度、電場の強さなどに関係するが、現在の実績からすれば、ばいじんを〇・〇三g/Nm3以下にすることは十分可能である。

(ハ) 自動燃焼制御及び還元二段燃焼装置

ごみ焼却に伴い発生する窒素酸化物を抑制する装置である。即ち、窒素酸化物には、空気中の窒素が高温雰囲気で酸化して発生するもの(サーマルNOx)と、ごみ中の窒素成分が燃焼して発生するもの(フユーエルNOx)とがあり、サーマルNOxは、温度が摂氏九〇〇度以下ではほとんど発生しないため、自動燃焼制御により炉内温度を摂氏九〇〇度以下に制御し、発生を抑制する。

一方、フユーエルNOxは還元二段燃焼の採用により、炉内の空気送入を乾燥段、燃焼段に分け、乾燥段では空気の供給をおさえ、還元雰囲気で分解させることにより、有機物中の窒素をアンモニア、有機窒素ラジカル等にし、次に燃焼段で十分な空気を送り燃焼させ発生した窒素酸化物と右アンモニア等が反応し窒素分子を生成することにより発生を減少させるものである。

(2) 排出濃度

〈編注・左表参照〉

物質

排出濃度

排出基準

硫黄酸化物

三〇ppm以下

六二ppm

窒素酸化物

一〇〇ppm以下

二五〇ppm

塩化水素

二〇ppm以下

一〇三ppm

ばいじん

〇・〇三g/Nm3以下

〇・〇八g/Nm3

(五) 廃水処理方法

廃水処理方法は、現在種々の処理方法によつて十分規制値を満足させ得るものであるが、クローズドシステムの技術が確立され、水の再利用もはかれることからクローズドシステムを採用する予定である。

清掃工場からの廃水は、焼却施設からのものである焼却灰冷却水、ピット汚水、洗煙廃水と、生活系廃水の洗車廃水、風呂廃水、手洗廃水とに分けられる。

焼却灰冷却水は灰による持ち出しと蒸発により減るため補給が必要で、廃水はでない。ピット汚水はごみピットに貯留されている時にごみより出てくる汚水で、季節的な変動が大きいが、貯留、濾過後、汚水を炉内噴霧により処理する。

洗煙廃水には減温廃水と洗煙廃水があり、減温廃水は循環使用し、一部蒸発するため生活系廃水及び清水の補給が必要で、廃水はでない。洗煙廃水は、処理後濃縮し、塩をコンクリート固化する。

生活系廃水は、油水分離、凝集沈澱、活性炭吸着などの処理をへて通常コンクリート固化用水、洗煙用水として用い、炉休止時には一部を滅菌し、落堀川に放流する。なお、廃水処理のフローチャートは別表(一)のとおりである。

近年建設された清掃工場のうち、松原市で計画しているクローズドシステムによる廃水及び湿式洗煙装置による処理方法を採用した例として青森県八戸市、東京都八王子市、福岡県福岡市等があり、クローズドシステムはすでに技術的に確立された方法であり実績もある。

3  新清掃工場の位置選定

(一) 松原市域の概要

松原市は東西約五・八km、南北五・一km、面積一六・六km2で山間部を有しない狭少な平坦地で、北は大阪市、八尾市に、西は堺市に、南は美原町に、東は藤井寺市、羽曳野市にそれぞれ隣接している。

松原市内は、都市計画の用途地域としては、そのほとんど大部分が住居専用地域ないし住居地域であり、わずかに大阪中央環状線沿いと大和川沿いに準工業地域が存する。

(二) 新清掃工場の位置

本件予定地は、準工業地域に近接し、ごみ収集車の搬入が住居密集地を避けうるうえ、工場からの排水可能な落堀川に面し、更に大阪府の定める土地利用計画作成要領記載の「附近三〇〇m内に学校病院等がないこと」の要件に合致し、用地として約二三、〇〇〇m2を確保できる場所である。

また、右土地利用計画作成要綱にいう清掃工場の立地条件である「市街地に近接しない場所で将来市街化の予想される区域から約五〇〇m以上離れた場所」との要件には合致しないが、そもそもかかる場所は松原市内には存しない。

ところで、航空法四九条一項により、八尾空港の標点(標高一〇m、運輸省昭和三五年告示二二五号)から半径二kmの円内は、水平表面から四五mを越える(東京海面を基準にする場合は、標高五五m)建造物を建設することは制限されている。

しかしながら、松原市では、昭和五四年新清掃工場予定地での標高につき実測したところ、一三・四八ないし一四・一八mであつたが、このことからすれば、航空法に何ら抵触せず実体高四一mの煙突を建設することが可能であることは明らかである。

また大阪府下でも、豊中市・伊丹市清掃施設組合では四五m、堺市第三清掃工場では五〇m、茨木市清掃工場では四〇m、四条畷市・交野市清掃施設組合では四〇m、柏原市・羽曳野市・藤井寺市清掃施設組合では四五mの煙突実体高であり、昭和五八年に建設され、現在稼働している池田市清掃工場は、煙突実体高三四mである。これらいずれの工場においても附近住民から公害による苦情は聞かれない。

4  新清掃工場建設に伴う環境影響評価

環境影響評価とは、各種の事業計画によつてもたらされる自然環境への影響を事前に予測し、その予測結果と人の健康、その他の環境の適合性の点から、望ましいと考えられる環境の水準と比較検討し、予測される変化、つまり当該事業計画によつてどの程度の影響があるのかを評価することをいう。

松原市では、市民の健康と都市環境を保護する観点から、大気環境について、松原市内の状況を把握するため、昭和五六年一〇月から同五七年九月までの間、市内三か所で、気象(風向・風速、日射量、放射収支量)、大気質(二酸化硫黄、ばいじん、二酸化窒素、塩化水素、非メタン炭化水素、オキシダント)の調査を行い、この調査結果を基に新清掃工場の稼働に伴う大気環境への影響を予測したが、その結果、排煙による大気環境への影響は、次のとおり極めて小さく、受忍限度を超える公害発生の蓋然性はないことが明らかにされた。

(一) 大気環境評価手法

大気予測に必要な手法については、現在まで、学問的背景のもとに昭和四九年「総量規制マニュアル(以下「旧マニュアル」という。)」として、具体的に示されるとともに、さらに、昭和五七年には静穏時の拡散、有効煙突高さの推定等に新たな学問的知見を取り入れる等の改善が行われた結果「窒素酸化物総量規制マニュアル(以下「新マニュアル」という。)」として、公にされるに至つた。

松原市では、これら旧マニュアル及び新マニュアルに示された手法は、各行政及び大気拡散研究にも広く用いられている一般的な手法で、かつ、精度も高いと評価されていることから、右手法を基に長期濃度予測において大気環境評価をまとめた。さらに、短期濃度予測については、現時点において、その予測方法として確立されたものはないため特に短期的に高濃度を及ぼすフュミゲーション(接地逆転層が下方より崩壊し、上層が安定、下層が不安定となり、上空に閉じ込められていた高濃度の煙が不安定層に巻き込まれ、地表にすみやかに舞い降りる現象)時についてホランドモデル(フュミゲーションによる高濃度予測として煙が閉じ込められていた上空から地表面までの垂直方向の濃度が一様となり、水平方向の濃度は、正規分布となると仮定したモデルの一つ。ホランドモデルは最も高濃度に算出される式)を用いて、短期高濃度予測を行つた。

ただ、ホランドモデルは、フュミゲーションの現象が十分にモデル化されているとはいえず、特に煙源近傍において、現実に起り得ない高濃度予測結果をもたらすとか、日本においては、ホランドモデルで示されたような高濃度は、出現しないとか指摘されていることから、松原市では、ホランドモデルを用いた短期高濃度の計算値を、あくまで単に試算値とした。

(二) 大気環境影響評価の基準

松原市では、環境影響評価を行うにあたり、予測された結果が人の健康とその環境にどのような影響を及ぼすか、そしてそれは受忍限度を超えるものかどうかの判断をするため評価基準としては、環境基準を採用し、これを環境保全目標値とした。

即ち、環境基準とは、世界保健機構(WHO)の判定基準及び国の中央公害対策審議会の答申等を基に、「人の健康を保護し、生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準」として公害対策基本法九条一項の規定に基づいて定められた基準であり、また右基準は、科学の進歩に伴う新たな影響に関する知見、測定技術等の開発の進展などにより常に適切な科学的判断が加えられ、必要に応じて改定が行われるべきものとされている。

しかも、それらの基準値は十分に安全率を見込んで設定されたものであり、環境影響評価における評価基準として信頼できるものである。

なお、公害対策基本法等を基に、現在までに、設定されている、二酸化硫黄、二酸化窒素、ばいじん及び塩化水素の環境基準値は別表(二)のとおりである。

(三) 本件予定地における気象観測及び大気質濃度の測定

松原市は大阪府が測定している藤井寺観測局の測定データ及び大阪管区気象台の測定データを用いて、大気濃度予測を行つたが、予測の精度をより高くし、より安全を期し、また、本件予定地の大気環境の現況を把握する目的で昭和五六年一〇月より同五七年九月まで本件予定地及び市内二か所において、気象観測及び大気質濃度の測定を行つた。

地上気象観測及び大気質濃度測定の項目は、地上気象観測(風向・風速、日射量、気温及び湿度)及び大気質濃度測定(窒素酸化物、二酸化硫黄、ばいじん、塩化水素、非メタル炭化水素及びオキシダント)である。

(四) 本件予定地の大気環境の現況

環境濃度については、新清掃工場による大気への寄与があると考えられる二酸化硫黄、二酸化窒素及びばいじんについて、年変化・日変化の特徴を調べて後、環境基準等との比較を行つた。それによると二酸化硫黄及び二酸化窒素は短期的評価においても長期的評価においても、環境基準値等を超えることはなかつた。ばいじんも年平均値的には濃度は低いが、日平均値では、環境基準値を数回超えたが、市内三か所の測定地点の中では、本件予定地の頻度が最も少なかつた。

(五) 大気環境の将来予測

二酸化硫黄、二酸化窒素、ばいじん及び塩化水素につき長期平均濃度予測と短期高濃度予測を実施した。

(1) 長期濃度予測

長期濃度予測は、通例に従つて、旧マニュアル及び新マニュアルの手順に準拠して実施した。

予測手順は次のとおりである。

(イ) 計算条件

① 地形的特性

新清掃工場の予定地は、河内平野のほぼ中央部に位置し、予定地周辺は平坦であり特異な拡散の場でないと設定した。

② 排出条件

最近の清掃工場における公害防止の技術の進歩は著しいものがある。松原市では、このような最新鋭の公害防止機器を十分に考慮して、技術的に対応可能である排ガス基準を計画値として、次の排出条件を設定した。

排出ガス量 四四、六〇〇Nm3/時

(最大稼働時)

三六、五〇〇Nm3/時

(平均処理時)

煙突実体高 四一m

〈編注・下表参照〉

物質

設定排ガス濃度

国の排出基準値

府の排出基準値

硫黄酸化物

三〇ppm

八〇ppm

六二ppm

窒素酸化物

一〇〇ppm

二五〇ppm

塩化水素

二〇ppm

四三〇ppm

一〇三ppm

ばいじん

〇・〇三g/Nm3

*〇・二g/Nm3

〇・一g/Nm3

*昭和五七年六月一日付で、大気汚染防止法の改正があり、現在では〇・〇八g/Nm3(酸素一二%換算)となつている。

③ 気象データのモデル化

気象データは、昭和五四年四月から同五五年三月までの新清掃工場近傍の藤井寺観測局において測定された風向・風速、日射量の一時間値及び、大阪管区気象台で測定された夜間の雲量データ(以下「藤井寺データ」という。)を各々用いた。さらに安定度分類法に従つて安定度を決定し、風向・風速階級・安定別の分類をした。

その後、松原市が昭和五六年一〇月より同五七年九月まで本件予定地において測定した風向・風速、日射量及び放射収支量(以下「若林データ」という。)を用いて、右と同様の分類を行つた。

④ 拡散パラメータ

拡散パラメータとは拡散式において用いられているパラメータ(あるものとあるものとを関係づける変数。媒介変数)をいうが、有風時には、パスキル・ギフォード、無風時にはターナーの近似式を採用した。

ただし、安定度AB、BC、CDはそれぞれA、B、Cとして近傍が高濃度になるような拡散パラメータを用いた。

⑤ 計算対象範囲

計算対象範囲は煙源を中心として周囲一辺長さを四kmの四方とし、範囲内を二五〇m間隔で格子状に区分し、各格子点(二八九点)上の着地濃度を求めた。

(ロ) 有効煙突高さのモデル化

有効煙突高さとは、煙突実体高に排煙の上昇高さを加えたものであり、実際に排煙が到達する高さを表わす。

有効煙突高さを求める式については、種々の提案がなされているが、松原市では、排熱量等を考えて、上昇式の選定を行つた。即ち、無風時にはブリッグス式、有風時にはコンケウェイ式を用いたが、気象データの測定地点が、本件予定地ではないため、煙突近傍が特に高濃度となる条件(安全側条件)になるように煙の上昇高を六五%とし、さらに無風時のブリッグス式中に含まれている温位勾配の値も、昼間においても近傍が高濃度となるように考慮した。

その後、無風時には風速〇m/秒の時のブリッグス式及び風速一m/秒の時のコンケウェイ式における値を〇・四m/秒に内挿した値を用い、弱風・有風時には、コンケウェイ式を用いて、各々有効煙突高さを算出した。

(ハ) 拡散計算式

無風時にはパフモデル、有風時にはプリュームモデルを用いた。ただし、弱風時では新マニュアルによるプリューム式を用い、弱風時風向出現率の補正も行つた。

(ニ) その他の条件

さらに新マニュアルに示されている代表的な値を地表濃度を求める式に使用するほか、地面粗度として、都市型を使用した初期拡散幅を考慮したもの、安定度を一ランク不安定側にしたもの(煙源近傍濃度が高くなる)等々の予測も行つた。

(ホ) 拡散計算結果

特に高濃度側=安全側に算出すべく配慮をして予測した結果、最大着地濃度が二酸化硫黄〇・〇〇〇二〇ppm、二酸化窒素〇・〇〇〇三九ppm、塩化水素〇・〇〇〇一三ppm、及びばいじんで〇・〇〇〇二〇mg/m3であつた。

若林データを使用して予測した結果は、最大着地濃度が二酸化硫黄〇・〇〇〇〇七ppm、二酸化窒素〇・〇〇〇一四ppm、塩化水素〇・〇〇〇〇五ppm、及びばいじん〇・〇〇〇〇七mg/m3であつた。

さらに、濃度予測において、旧マニュアル、新マニュアルで提案されているところの拡散パラメーターの修正及び安全側条件を各々考慮して、代表的な四つのケースについて二酸化窒素の大気濃度予測を行つた結果、最大濃度が出現するケースにおいても、その濃度は、〇・〇〇〇二二ppmであつた。

(2) 短期高濃度予測

(イ) フュミゲーション時の濃度予測

フュミゲーションによる高濃度予測式は種々提案されているが、いずれの式も現象を十分表わしているとは言えない。これらの予測式の中でホランドモデルは、地表濃度を最も高く予測する式であり、同モデルを用いて短期濃度の最高値として試算した。

① 排出条件

排出ガス量 四四、六〇〇Nm3/時

(最大稼働時)

排煙温度 摂氏一五〇度

② 気象データ

大気安定度 B

風 速 〇・五m/秒

温位勾配 〇・〇一℃/m

逆転層厚さ 排煙上昇高の六五%に煙突実体高を加えた厚さ

乱流係数 〇・二二五

③ 拡散パラメータ

サットンの拡散パラメータの値Cy(横方向への拡散)は三分間値であるため六〇分間値に換算し用いた。

④ 計算対象範囲

煙突実体高の二〇倍以遠とした。

⑤ 計算結果

二酸化窒素は八二〇m地点で〇・〇四九ppm、二〇〇〇m地点で〇・〇二二ppmの地表濃度を得た。同様に二酸化硫黄では〇・〇二四ppm、〇・〇二〇ppm、塩化水素では〇・〇一六ppm、〇・〇〇七ppm、ばいじんでは〇・〇二四mg/m3、〇・〇一一mg/m3の試算値を得た。

(ロ) ダウンドラフト・ダウンウォッシュ時の濃度予測

① 風洞実験による予測

ダウンドラフトについてその影響を調べるために、松原市では風洞実験を実施し、限界風速を予測した。

② 実験結果

ダウンドラフトについては、煙突の位置を南側とした場合、風速六m/秒、八m/秒では発生していないが、一〇m/秒ではやや発生し、煙突位置を北側とした場合、風速六m/秒、八m/秒及び一〇m/秒のいずれの場合においても、ダウンドラフト現象は発生していないとの結果を得た。

また、ダウンウォッシュについては、風速が一〇m/秒以下では発生しないとの結果を得た。

(六) 大気濃度予測の評価

(1) 年平均値の評価

(イ) 二酸化硫黄

松原市が昭和五六年一〇月から同五七年九月までの一年間に実施した、大気質測定濃度結果をバックグランド濃度と考え、これに長期予測値を加えた濃度を将来濃度と考え、環境基準と比較検討を行つた。

二酸化硫黄の予測濃度の最大値は、〇・〇〇〇〇七ないし〇・〇〇〇二〇ppmである。バックグランド濃度は、〇・〇一〇ppmであり、その寄与率は〇・七〇ないし二・〇〇%にすぎず、バックグラウンド濃度に予測値を加えても環境基準を十分満足する。

(ロ) 二酸化窒素

二酸化窒素の予測濃度の最大値は、〇・〇〇〇一四ないし〇・〇〇〇三九ppmである。バックグランド濃度は、〇・〇二六ppmであり、寄与率は〇・五四ないし一・五〇%にすぎず、バックグランド濃度に予測値を加えても環境基準を十分に満足する。

(ハ) ばいじん

浮遊ふんじんの予測濃度の最大値は、〇・〇〇〇〇七ないし〇・〇〇〇二〇mg/m3である。光散乱法で得られた測定値をばいじんに換算するF値〇・六六を乗ずると、ばいじんは〇・〇〇〇〇五ないし〇・〇〇〇一三mg/m3である。バックグランド濃度は〇・〇三八mg/m3であり、寄与率は〇・一三ないし〇・三四%にすぎず、周辺大気環境に及ぼす影響は、極めて小さい。

(ニ) 塩化水素

塩化水素の予測濃度の最大値は、〇・〇〇〇〇五ないし〇・〇〇〇一三ppmである。バックグランド濃度は、〇・〇〇四ppmであり、寄与率は一・二五ないし三・二五%にすぎず、周辺大気環境に及ぼす影響は極めて小さい。

(2) 一時間値の評価

一時間値の予測の最大値については、ホランドモデルで試算された値の中で、八二〇m地点での予測濃度を用いる。この最大濃度予測時には、バックグランド濃度としては、現地における大気濃度測定値の一時間の九八%値をバックグランド高濃度として採用し、環境基準と比較検討を行つた。

(イ) 二酸化硫黄

二酸化硫黄の最高値は〇・〇二四ppmであり、これにバックグランド高濃度〇・〇二九ppmを加えても〇・〇五三ppmとなり、環境基準を十分満足しており、周辺大気環境に及ぼす影響は軽微である。

(ロ) 二酸化窒素

二酸化窒素の最高値は、〇・〇四九ppmであり、これにバックグランド高濃度〇・〇六四ppmを加えても〇・一一三ppmとなり、環境基準の範囲内にあり、周辺大気環境に及ぼす影響は軽微である。

(ハ) ばいじん

浮遊ふんじんの最高値は、〇・〇二四mg/m3であり、ばいじんへの換算係数(F値)〇・六六を乗ずると、ばいじんの最高値は〇・〇一六mg/m3となり、これにバックグランド高濃度〇・一三二mg/m3を加えても、〇・一四八mg/m3となり、環境基準以下であり、周辺大気環境に及ぼす影響は軽微である。

(ニ) 塩化水素

塩化水素の最高値は、〇・〇一六ppmであり、これにバックグランド高濃度〇・〇〇九ppmを加えても、〇・〇二五ppmとなり、環境基準の範囲内にあり、周辺大気環境に及ぼす影響は軽微である。

(3) 短期高濃度をもたらすフュミゲーション、ダウンドラフト、ダウンウォッシュの評価

短期高濃度をもたらすフュミゲーション、ダウンドラフト、ダウンウォッシュについては、その発生する頻度は次のとおり極めて少なく、周辺大気環境に及ぼす影響は軽微である。

(イ) フュミゲーション

松原市では、まず、若林観測データを用いて、新清掃工場におけるフュミゲーションが起こる可能性のある頻度について検討した。フュミゲーションの物理的なメカニズムは、先ず、安定層が存在すること(安定度E・F又はG)、その後の安定層の解消時にすみやかに気流が不安定層に移行すること(安定度AまたはB)の二条件が必要不可欠である。右観測データを基に、そのフュミゲーションが起こり得る可能性のある頻度をピックアップすると、昭和五六年一〇月から同五七年九月までの一年間では、次の年間八回にしかすぎないことが判明している。

昭和五六年一〇月一三日

午前七時~八時

〃      二〇日

〃      二五日

〃      二六日

〃  一二月二五日

午前八時~九時

〃      二六日

〃      二七日

昭和五七年 一月二六日

午前七時~八時

つまり、フュミゲーションの継続時間については、高々二〇ないし三〇分間といわれておることから考えて、フュミゲーションの影響は、最大でも、一年間に八時間にすぎない。

(ロ) ダウンドラフト

風洞実験結果からダウンドラフトが起こりうる限界風速が一〇m/秒であるところから、若林データを用いて、その起り得る頻度について調査した結果、若林町が風下となる三風向で風速が一〇m/秒以上となるのは、一年間で五時間にしかすぎない。

(ハ) ダウンウォッシュ

ダウンウォッシュについても、ダウンドラフトと同様、その起こりうる頻度は、一年間で五時間にしかすぎないことからみてその影響がほとんどないことが判明した。

(4) 評価のまとめ

新清掃工場が稼働した場合の大気環境濃度の年平均値については、各項目とも環境基準を十分満足している。また、一時間値についても各項目とも環境基準を満足している。なお、フュミゲーション、ダウンドラフト、ダウンウォッシュも発生頻度は極めて低く、周辺環境への影響は極めて少ない。このことは、他都市の実例からも明らかである。

即ち、清掃工場から比較的近い位置に、大気質濃度観測局を有する施設である大阪府下の泉北環境整備施設組合(観測局から南東約三五〇m)、愛知県下の津島市(観測局から東約二一〇m)及び小牧・岩倉衛生組合(観測局から南々東約八五〇m)では、大気汚染物質の総排出量は、松原市の計画している総排出量よりも大きいが、大気質濃度の実測値によると申請人らが主張するような高濃度は出現せず前記、環境影響評価の正当性が裏づけられる。

(七) 大気汚染監視

新清掃工場の稼働後、大気環境影響評価を検証し、大気汚染状況を監視する目的のために、大気汚染モニタリングステーションを設置し、大気汚染物質の環境濃度を常時測定する。

清掃工場内では、排煙中の含有物質濃度、排ガス量、排ガス温度等の排出状況を測定し、また焼却炉並びに公害防止設備機器の稼働状況を監視し、設定排出条件を遵守する体制をとる。

四大阪府の申請の理由に対する認否及び主張

(本案前の主張)

大阪府下市町村の廃棄物処理施設の整備に関する大阪府の補助金の交付は、地方自治法二三二条の二、大阪府補助金交付規則(大阪府規則八五号)、廃棄物処理施設整備府補助金交付要綱に基づき、大阪府知事による補助金交付決定を経て交付されるものであるところ、右交付決定は府知事が行う行政処分であつて行訴法四四条により、民訴法上の仮処分によつて差止めることは許されず、本件申請は不適法である。

さらに、右要綱によれば、大阪府が市町村に補助するのは「知事が認めた事業」(同要綱二条)に限られるところ、現在は既設の処理場における「公害防止あるいは能力向上のための改造」に限定して運用されており、新設のため補助金を交付した例はなく、この点からも本件申請は訴の利益を欠き不適法である。

(申請の理由に対する認否及び主張)

申請の理由1の事実のうち新清掃工場の建設につき、大阪府知事が国の機関委任をうけた都市計画法上の承認権者であること、大阪府が前記法律、規則、要綱に基づく補助金の交付主体であることは認める。

同2ないし4は争う。

大阪府は松原市から建設予定の新清掃工場の建設計画につき、公害防止を中心に説明を受け、建設にあたつて遵守すべき関係諸法令、府条例等の説明を行い、松原市から右諸法令に適合する施設を計画している旨の説明を受けたが、右説明によれば、新清掃工場の建設に違法性はないから、これに協力する大阪府の行為は何ら違法ではない。

また清掃事業は市町村の固有事務であり、都市計画法上の承認及び国庫補助の経由事務は府知事が都市計画法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律等に従つて行うものであるから、申請人ら主張の如き、被申請人らが共同して準備行為をなすことはあり得ず、この点においても申請人らの主張は失当である。

五松原市の主張に対する反論

(本案前の主張に対する反論)

新清掃工場稼働に至る松原市の一連の行為のうちいかなる範囲が差止めの対象になるかについては、新清掃工場稼働実現への目的性の有無とそれとの密接度を基準として考えるべきである。

土地買収等建設準備行為は、新清掃工場建設という目的のもとに行われるものであつて新清掃工場の稼働に至る一連の不法行為の一部であつて差止めの対象となるのは明らかである。

(本案の主張に対する反論)

1 新清掃工場の必要性について

(一) ごみ量予測の誤り

松原市は、将来の人口及びごみ量予測において、いずれも単純に高度経済成長期の市内の乱開発による人口増・使い捨て消費生活様式が従来と同様なテンポで加速されていくと考え、昭和五七年には、人口一七万九五〇〇人、一人当たりのごみ排出量一、〇八〇g、市処理対象量一九四t、計画能力に対する推定量の比九七%に達し、計画処理能力の限界に達するので、昭和五八年には増設を予定していた。

しかしながら、昭和五五年をピークに市人口は減少し、昭和五五年の市人口は一三万五九三四人、一人一日当たりのごみ排出量は、昭和五四年をピークに減少し、昭和五五年は六〇七g、処理対象量は八二・五tであり、ビン・カン類を差し引けば八〇tを下回り、現工場において十分処理できている。

(二) ごみ量の削減の可能性

昭和五五年の松原市のごみの処理対象量は、八二・五tであり、松原市はこれらのすべてのごみを焼却場で処理しようとしているが、焼却場で処理しなければならないごみ量は、ごみ量の三分の一の二七t程度に減少することが可能である。例えば、ごみ中には半分以上の水分が含まれており、水分を含む生ごみである厨芥類を十分乾燥させるだけで、ごみ量は半分近くに減少する。さらに、生ごみを分別収集し、生ごみの堆肥化、メタンガス化による再利用を行えば、ごみ量を三分の一程度に減少させることができるし、生ごみを資源化することもでき、一石二鳥である。

また、ごみの中から空カン等金属類、空ビン等ガラス類、新聞等紙類、プラスチック類、乾電池類を分別収集すれば、ごみ量はさらに減少し、最終的に市が処理すべきごみは一〇分の一以下となる。

松原市は現在のところ完全な分別収集は、市民の理解と協力が得られそうになく不可能であると主張しているが、むしろ、市民の多くは、川口市の市民の如く「潜在的なリサイクルをやりたいという意識」をもつている。現に、広島市・下松市・駒ケ根市・松本市・佐久市・沼津市・善通寺市・川口市等々においては、市の熱心な指導と市民の理解と協力により、完全な分別収集を行つているのみならず、川口市においては、「資源回収による収益金がばかにならない高収入になることが市民に知られるようになると、こんなうまい話に乗り遅れるのは損であるという感情から、資源回収運動は急速に広まり、昭和五三年には資源回収登録団体が四八団体であつたにもかかわらず、昭和五五年には一八二団体とほぼ川口市全域に広がつている」のである。松原市においても、広報まつばらのアンケート調査結果によれば、市民が分別収集において十分協力する意思のあることが明らかであり、松原市の行政熱意さえあれば、松原市においても完全な分別収集は十分可能である。

またごみを分別収集し、ごみの減量化を図るということは、同時に、減量分を資源として再利用することを意味する。若林町会においては、紙は古紙回収業者に、空カンは金属再製業者に、空ビンは酒屋又はビン再製業者に、生ゴミは堆肥にして町会内の農家や希望者に売却し、相当な収益を得、本件仮処分に関する住民運動の運動資金に用立てているが、川口市においても、一町会の売却代金だけでも年間一六三万三〇〇〇円もの収益を上げているところもあり、その収益金により、住民の交通災害保険の費用、防災倉庫の建設資金、運動会や盆踊りの資金、子供会活動への補助、祭みこしの製作、さらには、「ゴミローン」を組んで土地を買い、町内会館を建設する町会も出現するなど収益金はさまざまな用途に使用しうるし、ごみ分別収集を住民が共同で作業することにより、地域の連帯、住民意識も強固なものとなつていくという目に見えない重要な利益も生まれる。

(三) ごみ焼却場を建設しないことによる松原市の財政的利益

松原市の昭和五五年度の決算は、総額一九二億円であり、自治体として自由に使える市税収入は六七億円しかない。一方清掃費は一〇億一〇〇〇万円(し尿処理関係は除く)が使われており、市税の一五・一%を占めている。松原市の計算では、ごみ処理費(ごみ収集・焼却・埋め立てを含む)は一世帯当たり一万四六八六円、一人当たり四四五一円で、ごみ一t当たり約二万円かかつており、昭和五五年で六億四〇〇万円となつている。

しかしながら、当初の予定どおり、若林町にごみ焼却場が建設されていたならば、本件予定地の購入費一〇億円、建設費三五億円、一〇年で元利返済すれば、年間七億程度の支払が必要であり、電気集じん器・塩化水素除却装置等の稼働費が年間約二億円必要となるから、現在の出費額に最低九億円増加していたはずであり、ごみ処理費は、約二・五倍にはね上つていたはずである。

さらに、もし予定どおり昭和五八年にごみ焼却場の増設を行つておれば、増設費に五〇ないし六〇億円程度は必要となろうから、ごみ処理費は確実に現在の三倍以上になつていたと考えられる。

(四) 緊急性の不存在

松原市が現工場での処理が限界に達していると主張して以来一〇年が経過したが、その間松原市は現工場の大修理を行い、ごみ処理を行つている。松原市の主張する「限界」が右のとおりである限り、現工場の修理により現工場による処理は相当期間可能である。

2 新清掃工場の基本計画について

ごみ焼却炉の技術的特徴は、そこで燃焼させる物(ごみ)の発熱量を一定にしえないというところにある。

即ち、焼却炉を一種のボイラーとみた場合、例えば、火力発電所のボイラーならば、燃料となるべき重油・石炭等の質がほぼ一定しているので、一度燃焼条件を決めてボイラーを設計すれば、炉内の温度・排煙の量、ばいじん濃度等はそれほど大幅には変化しない。ところが、ごみ焼却炉の場合、燃料となるべきごみの中には種々雑多なものが混在しており、その量を一定にさせることは出来ても、その質はいくら攪拌したとしても一定にすることは出来ず、一日のうちでも、まして季節別、年度別でみれば大幅に変化する。

従つて、ごみ焼却炉の基本設計にあたつては、何よりも右の如く大幅に変わるごみ質に対応出来るように設計されているか否かが基本となる。

(一) ごみ量

構造指針は、ごみ処理計画を立案するにあたつては、ごみの処理処分計画、計画処理量、計画収集人口等を求め、処理処分計画については、予めその収集運搬方法、中間処理方法、最終処分方法について、基本方針を設定しなければならないとしている。

ところが、松原市は、プラスチック、古紙、ビン、カン類は資源化を図るといいながら、現実には、現在に至るもその具体的計画はなく、計画処理量についても、松原市は、直接搬入ごみにつき、本来、入れる必要のない廃木材を掲げるのみで、直接搬入ごみの大半を占め、ごみ焼却量の一〇ないし二〇%を占めるスーパー・商店等の事業系一般廃棄物の処理計画が欠落している。

また、ごみ排出量は、G・M・D・H手法により推計したとされているが、そこで用いられた種々のパラメーターも明らかにされておらず、結局のところ、何ら合理性を有しない適当な数字が並べられているに過ぎない。

(二) ごみ質

ごみ焼却炉の設計にあたり最も重要な要素は、ごみ質の予測である。

構造指針も、「排出されたごみの性状を長期的な調査により把握することは、施設を計画するとき、機器の仕様、設備の能力性能を決定するための重要な基本条件となる。」と指摘し、計画目標年次におけるごみ質につき、過去の年次別、季節別のごみ質の実績を基にして、平均値及びその範囲を定めなければならないとしている。

そして、燃焼空気量、排ガス量、有毒ガス濃度は、通例、最大発熱量のごみ質の時に最大となり、この時にでも有害物質の排出量を計画値以下に保つように設計しなければならないから、公害防止設備は、このような最大排ガス量の時にでも対応出来るように設計されねばならない。

従つて、少なくとも最大排ガス量を推定出来るにたる資料を作つておかねばならないのは常識であり、予測すべき元素分析値にしても、最大発熱量時の元素分析値が必須である。

ところが、松原市は、将来ごみ質の平均値を求めたにすぎず、低位発熱量、排ガス量についても、最高値・最低値は、平均値を基に、その上下の巾をどれだけにとるかということで考えているにすぎない。

(三) 数値、計算式の信用性

松原市の計画による組成分類の数値、プラスチック含有率はいずれも整合性を欠くうえに、プラスチック含有率の将来推計値である〇・一三にしても、可燃分の元素分析値の推計値にしても、特段の根拠なく、到底信用出来ない。

(四) 塩化水素発生量、窒素酸化物発生量の過少評価

松原市は、塩化水素の発生濃度を、五〇四ppm、九・七Nm3/時としているが、これは元素分析値による予測結果、プラスチック含有量による予測結果に照らしても、また他施設の設計値と比較しても、著しい過少評価といわざるを得ない。

窒素酸化物についても、松原市は、空気中の窒素の酸化によるものが支配的であるとしているが、最近の研究では、ごみ中に含まれる窒素分の寄与の方が大きいとされているうえ、松原市採用予定の還元二段燃焼も未だ実験段階であるといつても過言ではない。実際、還元二段燃焼については、不完全燃焼、不安定燃焼を生じさせやすいことが指摘されている。

また、松原市は、窒素酸化物につき、有効な除去装置がないにもかかわらず、排出濃度を一〇〇ppmとするとしているが、池田市清掃工場の実測値においても、これをはるかに超えている。

(五) 洗煙装置

新清掃工場と同種の装置を有する工場の洗煙装置の現実の稼働率は三三・二%ないし七五・九%であつて、塩化水素を九七ないし九八%除去しうるという松原市の計画は実現不可能である。

(六) 廃水

(1) クローズドシステムの可能性

松原市の計画を前提に計算すれば、ピット汚水、洗煙廃水が全くないと仮定しても灰冷却水を加えた廃水の総量は、一日当たり三〇〇tにも及びこれらが全てコンクリート固化に用いられるとすれば、一日当たり三、〇〇〇tものコンクリート(水の重量比を一〇%とする。)が生成されることになり、この非現実性は明らかであつて、落堀川への放流は必至であつて、申請人らの耕作する本件予定地周辺の農地は、落堀川から農業用水を取水しており、落堀川の汚染は、深刻な農業被害を生むことは明らかである。

(2) 廃水処理について

凝集沈澱については硫化ソーダ法を採用した場合、例えば、水銀等の除去率が現実には理論値をはるかに下回ること、あるいは、硫化イオンが、その後のプロセスである活性汚泥の機能に致命的な影響を与える等の問題点がある。

また、右に加えてアルカリ凝集法を採用しても、その効果は硫化ソーダ法に比較して相当低く、とりわけ、PHの調整が非常に微妙であり、実際の運転が極めて困難である等の欠点がある。結局、凝集沈澱法による重金属の除去の効果は、現実には期待できない。

活性汚泥処理は、微生物である活性汚泥により、有機物を生物的に分解させるプロセスであるが、その様な処理方法であるだけに、極めて微妙であり、廃水中の毒物により活性汚泥が死滅し、機能がストップすることが充分考えられる。

その後の濾過器についても、活性汚泥処理が満足に機能しないとすぐに目詰まりをおこし、機能がマヒする。

また、キレート樹脂にしても、吸着した水銀を除去するのが相当困難であるうえ、価格も相当高価であつて、日常的に稼働させることは到底不可能な状況である。

さらに、活性炭吸着処理についても、濾過器と同様すぐ目詰まりをおこすことが考えられ、しかも、活性炭自体相当高価で、日常的な使用は非現実的である。

そして、最終的な塩素滅菌というプロセスについては、廃水中の有機物と塩素が化合し、トリハロメタン等の発ガン性のある有機塩素化合物が生成されることが報告されている。

以上の様に、ごみ焼却場の廃水処理については、とくに水量・水質の大きな変動という特質からその処理は決して容易ではなく、机上の計算通りには到底実現しないのが現実である。

(3) 農業への影響

さらに、問題となるのは、仮に、想定された通りの廃水処理がなされたとして、それが落堀川に放流され、それが農業用水として利用された場合、農業にいかなる影響が予想されるか具体的には焼却場からの廃水が放流され、農業用水として利用されるまでの間、どの程度希釈されるか、という点である。

この点については、申請人ら住民の手によつて落堀川での塩水を用いた大規模な拡散実験が行われた。その結果、拡散はそれ程起こらず、塩分濃度においても、農業用水基準の一〇倍を超える程度までにしか希釈されないことが判明した。

例えば、銅については、水質汚濁防止法の基準は三ppmであるが、農業用水基準は〇・〇二ppmであり、一五〇倍の希釈がなされないと農業用水基準がクリアーされないのであるが、右実験によれば、それは全く実現不可能な状況である。

過去最新工場といわれた川崎市王禅寺の焼却場で、その排水により大規模なカドミウム汚染が発生し、カドミウム米がとれただけでなく、土壌自体がカドミウムにより汚染され、農業自体が不可能となつた現実がある。この事実は、特殊川崎王禅寺の例だけではない。本件に関しても同様の被害発生が十分予測できる。

3 位置選定について

(一) 航空法による規制

(1) 航空法四九条一項

本件の最大の特徴は、本件予定地に建築される煙突について航空法の高度制限があるという点である。即ち、本件予定地はまさに航空法四九条一項に該当するものであり、松原市において、右の制限があるのは、本件予定地のみといつてよい。

そして、松原市の予定する四一mの煙突自体が、運輸省係官により、違法であるとされ、また、航空法四九条一項の但書の適用がないことも明らかである。

(2) 煙突実体高の重要性

有効煙突高さが高くなれば一般的には、拡散される範囲は広範囲となるものであり、汚染物質の最大着地濃度は有効煙突高さの二乗に反比例するといわれている。

そして、右有効煙突高さとは煙突の実体高と煙の上昇高とによつて成り立つている。

煙の上昇高さを決定する式については、一〇〇を超えるものが発表されており、その式の構成も様々であり、計算の結果得られる値についても、一〇倍以上の差があるうえ、実測例についていえば、三〇〇から五〇〇mのばらつきがあり、煙突の実体高より低い実測値も出ている。

従つて煙の上昇高というものを計算によつて算出し、それを前提に拡散を考えることは極めて危険であるといわねばならない。

また、右の事実があるからこそ、近時の焼却場では、高煙突のものが建築されているのである。

実際、隣接する大阪市においては、新しい工場の煙突実体高は全て一〇〇m近く、昭和四八年以降同五四年までの間に全国で新設されたごみ焼却場二九〇施設のうち、新清掃工場と同程度の処理能力を持つ焼却場で煙突の実体高が四一m以下のものはない。

(二) 地形的条件などについて

(1) 地域性

若林町はいわば完全な農村地帯であり、未だ周囲には田や畑が存在している状況であり、ここ何十年もの間、大きな環境変化はなく、既に地域開発がほぼ全市的になされた松原市の中で、今後、工業地域化が進むことは全く考えられない。

(2) 汚染物質の拡散と地形的条件

若林町は高さ一四mと二七mのシャープスポーツセンター、シャープ商品センターの倉庫群が立ち並び北側は高さ六mの堤防に、南側は高さ七mの西名阪道路、西側は高さ八mの壁で囲まれている。そして、本件予定地よりわずか一二〇m離れた所に申請人らの居住する集落があるものであり、いわば、小さな盆地といつてよい。

しかも、前記西名阪道路等の通行量は、昭和五七年五月でも一三万五〇〇〇台/日に達しており、そこで発生する熱が一種の空気の壁となり、盆地外との空気の流通が極めて困難となつている。

汚染物質の拡散には、右のような周囲の道路及び大和川の存在が大きく影響することは明らかであり、本件においては、拡散の一般論が妥当しない地形的条件があるというべきである。

(3) 交通渋滞及び水害の可能性

申請の理由2(二)(6)及び(7)で述べたとおりであつて、この点においても本件予定地は適地性に欠ける。

(三) 代替措置、代替場所の存在

(1) 広域行政の可能性

松原市は、河内平野の中心部よりやや南側に位置しており、市域全体が平野部というべき地域であり、いわゆる山間部等は存在しない。

このような場合、例えば、松原市に隣接する藤井寺市、羽曳野市、柏原市などは一部事務組合を結成して協同してごみ処理を行い、また、隣接の八尾市の場合は、大阪市との共用でごみ焼却工場を建設するなどして土地と費用を各自治体が負担しあう広域行政の可能性もあるが、松原市にあつてはそのような努力のあとは一切みられない。

(2) 代替可能地の存在

松原市には、三宅東付近、三宅西、天美東に本件予定地の二ないし三倍の広さの空地(しかもほとんど人家がない。)が存在し、交通の便についても若林町と大差がなく、何よりも、右地域には航空法の高度制限がない。

にもかかわらず、松原市は代替地の存在につき充分検討せず、本件予定地に新清掃工場を建設する必然性は何ら存しないというべきである。

4 新清掃工場稼働による大気汚染の増大について

(一) 新清掃工場の立地条件

本件予定地付近では、年間を通じてもつとも頻繁な風向は東南東ないし西北西方向の風であり、東南東系の風が吹くときは直接的に、西北西系の風が吹くときは、滞流汚染物質を運ぶ逆流として、日常的に若林町一帯が排煙の通過ないし滞留地点となることが想定される。

そして煙源の東南東側にシャープスポーツセンター、シャープ商品センターなど比較的高く横幅が大きい建物群が存在し、これがダウンドラフトによる地上濃度の増大の理由となり、若林町住宅密集地の西端から二百数十mの地点にある高速道路は、排煙の円滑な通過をさまたげる擁壁の役割をしている。

即ち、新清掃工場が稼働する場合、煙突高が僅か四一mという低煙突であることと右の立地条件によつて、排煙が若林町住宅地上空を通過せず落下し、排煙が若林住宅地ならびにその西側に溜留してその地域を汚染してゆく可能性が極めて大きい。

こうした意味において若林町は新清掃工場の被害をうける蓋然性が極めて高く、もつとも不利な立地条件にあるといわねばならない。

(二) 排出濃度

塩化水素、窒素酸化物の発生量につき、松原市が過少評価していることは前記2(四)のとおりである。

(三) 本件予定地付近の汚染状況

松原市は一時間値についてはその測定値の九八%値と環境基準とを比較しているが、これは妥当ではなく、一時間値については年間最高値と比較すべきである。

右の立場からみると、若林町は、次のとおり現在既に相当強い汚染状況にある。

二酸化硫黄の一時間値の年間最高値は五三ppb、一日の年間九八%値は二一ppbであり、いずれも環境基準の約五〇%である。

二酸化窒素は、一時間値の年間最高値は一五七ppbであり、環境基準一〇〇ppbを五七%上廻る。日平均値は環境基準(〇・〇四ないし〇・〇六ppm)の下限と上限の中間値であり、一〇ppb増えることによつて上限をこえることになる位の危険な状況にある。

ばいじんは一時間値の年間最高値は五一〇μg/m3であるから、環境基準二〇〇μg/m3の二・五倍に、日平均値は一四九μg/m3であるから、環境基準一〇〇μg/m3の約一・五倍に達する。

(四) 松原市による汚染予測の欠陥

① 松原市の予測した塩化水素の炉出口濃度五〇四ppmは著しく低い値である。

② 煙突実体高は三九ないし四〇・二mとなり、低煙突である。

③ 周辺を平地と仮定して計算しているが、煙突建設予定地を中心とする半径五〇〇m以内に、煙突実体高の二・五分の一以上の高さの建物が建つており、平地であるという仮定は成立しない。

④ 松原市の観測位置は周辺建物よりも低い一〇mであり、東、南寄りの風が吹くときは建物の影になり、風速は弱くなる。申請人らの観測位置は地上二〇mであり、両観測点の夜間の風速は、申請人ら側が松原市に対し、西北系の風(建物の影響を受けない)で一・四二倍、東南系の風で一・六八倍となる。この差はシャープの建物の影響によるものである。また建物の影響を受けない西北系の風の場合の風速比一・四二は、p値が〇・五の場合の一・四一とほぼ等しいから、本件予定地における夜間のp値の平均値は〇・五であると考えることができる。

⑤ 松原市は風洞実験結果によると、煙突が建屋の南側にあり風速一〇m/秒の時のみダウンドラフト現象が生じているとしているが、六m/秒、八m/秒の時にも生じているとみるべきである。また風洞実験は建物に直角になる東、西の二方向の風についてしか調べていないが不適切である。またp値を〇・二にしていることは妥当でない。この風洞実験からは煙の上昇高さはコンケウェイの式よりも低く、三〇〇m地点では風軸の高さは煙突出口よりも低くなつている。

⑥ 新清掃工場の平均焼却量は一四七t/日、ガス量は一八、九五〇〇Nm3/時、煙の排出度は二一m/秒となり、これに対応するダウンドラフトを生じさせる風速は四・八m/秒である。

⑦ 小川の実験並びに予定地での煙流実験により、本件予定地ではダウンドラフトがみとめられる。

⑧ 新清掃工場の排煙量はコンケウェイ式の適用外であり、風洞実験結果からは東系の風で煙突頂上の風速が六m/秒以上のときは煙の上昇高さは零にすべきである。

⑨ ダウンドラフトの影響を知るため、小川の風洞実験を参考にしつつマニュアルの式を用いて計算すると、建屋高さ(二〇m)の一二倍、二四〇mの地点での地上濃度と風軸上の濃度の比は、安定度がAのとき一対一、Bのとき一対一・九、Cの時一対二・四、Dのとき一対三・七二〇であるが、建物があると安定度がDであつても、地上濃度は約一、七〇〇倍も上昇し、建物がない理想的な平地での安定度A、Bのときは実現される濃度比一対二・一五と同じ程度になる。

⑩ これまでの前提を用い、東北東、東、南東の四風向を対象にし、プルーム式を用いて、安定度は横方向D、縦方向Aのパスキルの拡散係数を用い、煙突出口での風速を六m/秒とし、計算地点を二五〇mと五〇〇mとして、二酸化窒素の着地濃度(時間値)を計算すると、二五〇m地点で三四ppb、五〇〇m地点で一〇ppbとなり、フュミゲーションが重なる時刻には二倍され、六八ppbとなる。

⑪ 右計算値は、A市(津島市)の拡散実験結果である五〇〇m地点での最高値三〇ppbとほぼ等しく、A市より煙突が二〇m低くダウンドラフトの影響がより強いことを考えるとやや低めになつている。

⑫ 小牧・岩倉の最高値の換算値五二ppbは煙突高さが六〇mであり、フュミゲーションと山からのおろし風が重なるときの参考値である。この五二ppbをホランド式を用いた五〇〇m地点の予測値七六ppbと対比すると、ホランド式による計算値はありえない値ではない。

⑬ 右の三四ppbは、排出濃度の約二、〇〇〇分の一であり、高槻工場のばいじん排出量と着地濃度の比一、八八一分の一と同じ程度である。

⑭ ⑩の計算値をもとに年間平均値に対する寄与をみてみると、四方向の風向は年間約三〇%の頻度であり、このうち地上風速二・五m/秒以上(煙突頂上で四・八m/秒)の頻度は五・四%である。

したがつて、三四ppbに〇・〇五四を掛けると二・五m/秒以上の風(ダウンドラフトを生じる)による着地濃度の年平均値は二ppbとなる。

これは松原市の計算値の二〇倍にあたる。また夜間のみについてダウンドラフトが生じる頻度をみると、p=〇・五が成立するとすると、煙突頂上で六・〇m/秒の風速のとき、松原市の観測点(地上一〇m)では風速は二・五m/秒となり、平均焼却時(一四七t/日)にはダウンドラフトの高じる風速は四・九m/秒となるから松原市観測点では二・一m/秒となる。二・一m/秒以上の風速のある時間数は夜間の風のうちの六・三%である。

⑮ 風速二・五m/秒以下(夜間は二・一m/秒以下)の風による着地濃度の短時間値は推定しがたいので年平均値に対する寄与を求めにくいが、二・五m/秒以上の風の六倍の頻度があることを考えると、若林町付近の年平均値は松原市の予測値の数十倍になる。

⑯ 着地濃度の許容値を決定するについては、バックグラウンド値が環境基準をこえている場合と、こえていない場合について別々の評価基準をもつ必要がある。こえている場合には一段ときびしい規制が必要であるが、こえていない場合でも環境基準一杯まで汚してよいものではない。汚し得る容量について二酸化窒素につき時間値で一〇ppb、即ち環境基準の一〇%、環境基準の九〇%以上のときは一〇%以下、環境基準を上廻つている場合は数%とすべきである。

⑰ 窒素酸化物については、二酸化窒素の一時間値の年間最高値は一五七ppbであるから環境基準値一〇〇ppbの数%を評価基準とすると、一時間値の予測値七〇ppbは評価基準の二〇倍程度となる。年平均値は数%以下にすべきであるが、松原市の予測値〇・一ppbを数十倍、かりに三〇倍すると三ppbとなり一五%になる。日平均値は、環境基準の一五%をこえている日が二九日、一三%以上の日が六〇日に及ぶ。

⑱ 硫黄酸化物については、二酸化硫黄の一日平均値は評価基準の四ppb以下となる場合がほとんどと考えられる。一時間値は評価基準の三倍となる。

⑲ ばいじんについては、一日平均値はあまり問題でないが、一時間値の年間九八%値は二〇〇μg/m3であるので、環境基準と等しくなる。従つて評価基準を数%とすると、一時間値の予測値三五μg/m3は評価基準の六倍程度になる。

⑳ 塩化水素については、一時間値が十分基準内にあるとはいいがたい。

(五) 環境基準について

(1) 二酸化窒素

二酸化窒素については、昭和五三年七月一一日付の環境庁告示三八号が、「公害対策基本法第九条に基づく大気の汚染に係る環境上の条件のうち、二酸化窒素に係る環境基準について次のとおり告示する。」として、「一時間値の一日平均値が〇・〇四ppmから〇・〇六ppmまでのゾーン内又はそれ以下であること」という環境基準を設定した。

ところで、「二酸化窒素に係る環境基準の改定について」と題する昭和五三年七月一七日環大企二六二号都道府県知事・政令市長あて環境庁大気保全局長通知が「この環境基準は、答申(二酸化窒素の人の健康影響に係る判定条件等についての答申)で示された判定条件及び指針が現在の時点における二酸化窒素の人の健康影響に関する最新・最善の科学的・専門的判断であり、また、それは公害対策基本法九条一項に規定する人の健康を保護するうえで維持されることが望ましい水準を示すものと判断し、答申で提案された幅をもつた指針に即して改定されたものである。」と述べているところからも明らかなように、右環境基準は、右答申の結果をそのまま採用したものに他ならない。

しかるところ、右答申は、短期暴露については一時間暴露として〇・一ないし〇・二ppm、長期暴露については年平均値として〇・〇二ないし〇・〇三ppmを指針値として答申していたのであり、右環境基準は、「一日平均値の年間九八%値と年平均値は高い関連性があり、一日平均値で定められた環境基準〇・〇四ないし〇・〇六ppmは年平均値〇・〇二ないし〇・〇三ppmにおおむね相当するものであるとともに、この環境基準を維持した場合は、短期の指針として示された一時間値〇・一ないし〇・二ppmをも高い確率で確保することができる。」(前記通知)との判断のもとに、答申の指針値を一時間値の日平均値で表現したものと考えられるのである。

従つて、確かに公害対策基本法九条に基づく環境基準としては、一日平均値〇・〇四ないし〇・〇六ppmではあるが、一時間値としての〇・一ないし〇・二ppmや年平均値としての〇・〇二ないし〇・〇三ppmも一日平均値と同様の意味合いを有しているというべきである。

(2) 短期値と長期値の関係

煙突の形状等によつて、排煙が年平均値、一日平均値、一時間値にあたえる寄与の程度は異なると考えられ、低煙突小煙源は、年平均値よりも短期値に大きく寄与するのであつて、二酸化窒素の場合、一時間値、年平均値のいずれの指標からも検討される必要がある。

なお、ばいじんの場合は、右とは若干事情が異なり、昭和四七年二月一四日環大企二七号「浮遊粒子状物質に係る環境基準の設定について」は、「この環境基準は、現在までに得られた知見をもとに、呼吸器系器官に対する長期的影響および短期的影響を考慮し、次の二つの値のいずれをも満たすものとしたものである。」として前に引用したような基準を示し、この場合、日平均値と一時間値が同義のものとして示されているのでないことは明らかである。

(3) 基準値の幅

二酸化窒素の場合、環境基準等は、幅をもつたものとして示されている。そこでこの幅が何を意味するのかが問題となる。

ところで、昭和五三年七月一七日環大企二六二号都道府県知事・政令市市長あて環境庁大気保全局長通知「二酸化窒素に係る環境基準の改定について」は、「二酸化窒素の環境基準による大気汚染の評価については、年間における二酸化窒素の一日平均値のうち、低い方から九八%に相当するものが〇・〇六ppm以下の場合は、環境基準が達成され、一日平均値の年間九八%値が〇・〇六ppmを越える場合は環境基準が達成されていないものと評価する。」と述べる一方、「一日平均値が〇・〇六ppmを越える地域にあつては、当該地域のすべての測定局において〇・〇六ppmが達成されるように努めるものとする。次に一日平均値が〇・〇四ないし〇・〇六ppmまでのゾーン内にある地域にあつては、原則として、そのゾーン内において、都市化・工業化にあまり変化がみられない場合は現状程度の水準を維持し、都市化・工業化が進む場合は、これを大きく上回ることのないよう努めるものとする。このことは、安易に〇・〇六ppmまで濃度を上昇させてもよいと解されてはならないし、現実的に可能な無理のない範囲内の努力により現状の水準をゾーン内において改善することを否定するものではない。

なお、一日平均値が〇・〇四ppm以下の地域にあつては原則として〇・〇四ppmを上回らないよう防止に努めるよう配慮されたい。」とも述べているのであつて、下限値が単なる参考程度のものでないことが明らかである。

(4) 短期値の頻度

前記昭和五三年七月一七日環境庁大気保全局長通知は、「短期暴露の指針は、これを一回越えたからと言つて直ちに影響が現れるというものではないとされている。」と述べるのみである。

二酸化窒素に関する短期値については、前記「二酸化窒素の人の健康影響に係る判定条件等についての答申」が、その指針を示しているところ、右指針は、WHOの窒素酸化物に係る環境保健クライテリア専門家会議の検討結果をも参考にして決められたものである(答申は、「WHOの窒素酸化物に係る環境保健クライテリア専門家会議は二酸化窒素単独暴露の場合、動物実験の知見から〇・五ppmを好ましくない影響の観察される最低レベルと考え、これに安全率を見込むことによつて、公衆の健康保護に必要な暴露レベルは、一時間値〇・一〇ないし〇・一七ppm以下であるとしている。」と論じている)。

しかして、右クライテリアは、「専門委員会は、公衆の健康を守るための最小の暴露レベルは二酸化窒素については、最大一時間暴露として〇・一〇ないし〇・一七ppm以下であろうという合意に達した。この一時間暴露は、一月に一度を越えて出現してはならない。」と述べているのであり、前記答申も右の趣旨を否定しているとは考えられない。

とすれば、答申は、一月に一回越えて出現してはならないものとして右指針を提起したものと考えるのが適切である。

なお、ばいじんについては、「一回越えたからと言つて直ちに影響が現れるというものではないとされている。」という趣旨のコメントはない。

従つて、この場合は、年間最大値を問題にすべきである。

(六) 着地濃度の評価

(1) 窒素酸化物(二酸化窒素)

若林町における二酸化窒素の一時間値の年間最高値は一五七ppbであり、環境基準値をはるかにこえているが、これに対して前記(四)のとおり八ないし七〇ppbの寄与がなされれば、環境基準値をはるかにこえる高濃度となることが推測される。

年平均値については環境基準は二〇ないし三〇ppbであるところ、バックグラウンド値がすでにその中間値である二六ppbとなつている。これに四風向ごとの年平均値を加えたものが年平均値の予測値となる。仮に東南東風についてみると二六ppbに三・二六ppbを加えると、二九・二六ppbとなり、ほとんど環境基準値の上限に接近する。東北東で二七・四九ppb、東で二八・二三ppb、南東で二九・四八ppbであり、いずれも同様である。若林町には四方向の風によつて排煙がもたらされるとして、もつとも頻度の高い東南東、南東の風をとるといずれも二九ppbをこえる値となり、著しい高濃度地区となる。

日平均値の環境基準値は四〇ないし六〇ppbであり、バックグラウンド値はすでに上限値と下限値の中間の五〇ppbに達している。風向頻度の大きさによつて日平均濃度を推定すると、年平均値の二・四倍以上の日が一九日となるが、日平均値の九八%値は年間における高濃度日の上から七番目の値を指すから、東系の風の頻度が全風系の八〇%以上である年間七日について計算すると、この場合の日平均値の推定値は年平均値の一・七七倍となる(東系風向全体の頻度四五・三%と八〇%との比較)。年平均値は前記のとおり若林町において頻度の大きい東南東風で三・二六ppb、南東で三・四八ppbであるから、その一・七七倍は五・七七ppb又は六・一六ppbとなる。

従つてこれを、バックグラウンド値の日平均値の九八%値である五〇ppbに加えると、約五六ppbとなり、日平均値の上限値にかなり接近する。これは相当の高濃度値を意味している。

(2) 硫黄酸化物(二酸化硫黄)

二酸化硫黄については、一時間値の年間最高値は五三ppb、日平均値の年間九八%値は二一ppbであり、年間平均値は一〇ppbである。環境基準は一時間値について一〇〇ppb、日平均値の年間九八%値について四〇ppbとしている。

一日平均値である四〇ppbの一〇%の四ppbを評価基準とすると、年平均値一・五ppbの二倍以上になると二九日間は三ppb以上となるが、これは評価基準四ppb以下になる場合がほとんどであまり大きな問題を生じる恐れはない。

(1)と同じ方法で計算すると、二酸化硫黄が二酸化窒素の二分の一となるとして、三・〇ppbとなる。一時間値については、右評価基準の三・五倍となる。

(3) ばいじん

若林地区における一時間値の年間九八%値は〇・二〇mg/m3、年平均値は〇・〇五七mg/m3、一日平均値の年間九八%は〇・一四九mg/m3である。

(1)と同じ方法で日平均値に対する寄与をみると、〇・〇〇三mg/m3となり、年間九八%値は〇・一五二mg/m3となり、環境基準を五二%こえる高濃度となる。

一時間値については年間最高値は五一〇μg/m3であり、環境基準の二・五倍になつている。排煙による推定値は三五μg/m3で、前記評価基準の四倍ないし一〇倍となつている。

(4) 塩化水素

塩化水素については、一時間値の推定値は二三ppbとなり、これだけで、塩化水素の規制値一〇ないし三〇ppbの上限値に近い。都市ごみ焼却処理施設排出ガス規制検討委員会報告による塩化水素発生濃度は八四〇ppmとされているのに、松原市の設定値は五〇四ppmであるから、これを換算すると前記推測値は一・六七倍されて三八・三ppbとなり、環境規制値をこえてしまう。また前記のとおり、現在ガス洗浄装置が設置されている他工場でも右装置は十全に稼働していないのであり、そのことからすると、本件焼却場についても年間で相当時間、装置が稼働しないであろうことが予想される。今仮に都市ごみ焼却処理施設排出ガス規制検討委員会報告のいう八四〇ppmがそのまま排出されるとすると、二〇ppmの塩化水素が排出された場合の一時間値の推定値は二三ppbであるから、これとの比例関係からすれば、右の場合の一時間値は、〇・九六六ppmとなつて、基準をはるかにこえることになる。

六大阪府の主張に対する反論

補助金交付決定はともかく、交付行為そのものは事実行為であり、交付主体が優越的地位にあるともいえないから交付行為は行訴法四四条にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とはいえない。

仮に補助金交付が行政処分であるとしても、被申請人間に通謀の事実があり、新清掃工場の建設により申請人らの人格権、環境権等が侵害される場合には、右行為は申請人らに対する不法行為に該当し、当然民訴法による仮処分の対象となる。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一  松原市に対する申請について

一  松原市の本案前の主張に対する判断

松原市は、建設準備行為及び新清掃工場の建設あるいは工場それ自体の存在により、申請人らの権利が侵害されることはなく、建設準備行為及び建設行為の差止めはいずれも訴えの利益を欠くと主張するけれども、右は要するに本案について主張自体理由がないというにつきるものであり、訴の利益を欠く事由とはならないから、松原市の右主張は採用できない。

二  当事者

松原市が本件予定地上に新清掃工場を建設する事業の主体であることは当事者間に争いがなく、松原市は申請人吉田明男を除くその余の申請人らが本件予定地付近に居住することにつき明らかに争わないのでこれを自白したものと看做す。

三  新清掃工場建設の必要性

〈証拠〉によれば、松原市は昭和四二年に建設した処理能力設計値一日八時間二五tの準連続炉二基を備えた現工場を保有しているが、現工場は建設後一九年に入つて、当初の耐用年数をはるかに超えており、建屋の老朽化も進み、焼却炉のみならず、他の諸施設も耐用限界に達していること、松原市のごみ排出量は毎年増加し、現工場の処理能力が五〇tにすぎないため、稼働時間を延長し、辛うじてこれに対応してきたが、これ以上のごみの増加には対処が困難であること、さらに、建設当時と比べ、ごみ質の変化、特にプラスチックごみの増加により低位発熱量が高くなり、現工場はこれに対応できないうえ、敷地が狭いため、大阪府公害防止条例二二条同施行規則七条により設置が義務づけられているガス洗浄集じん装置の設置も不可能であることが疎明され、右事実によれば、新清掃工場の建設は避けられず、しかも緊急を要することが明らかである。

申請人らは、松原市はごみ量の予測を誤つているのみならず、ごみ量についても削減努力により大巾にその量を削減することが可能であり、新清掃工場を建設せずにこれまでと同様に修理を行い相当期間現工場によりごみ処理が可能である旨主張する。

確かに、ごみの分別収集等によりごみの減量化を図ることは重要なことであり、〈証拠〉によれば、若林町では、ごみの分別収集、資源の再利用に積極的に取組むことにより、ごみ量の削減を図り、一定の成果をあげていることが疎明される。

しかし、申請人らも認めるように焼却を要するごみの発生は避けられないものであり、現工場はその処理能力が限界に達しているだけでなく、焼却炉等が老朽化して耐用限界に達しているうえ、設置が義務づけられているガス洗浄集じん装置を設置することが不可能な状況にあることは前記のとおりであるから、ごみ量の削減は新清掃工場建設の必要性を失わせるものではない。

四  新清掃工場の概要及び公害防止措置

1〈証拠〉によれば、松原市の新清掃工場建設の計画は昭和六五年における①計画焼却処理量、②計画ごみ質と低位発熱量、について松原市主張の各数値を予測し、計画したこと、③ごみ処理方法についてはその主張どおりであること、④排煙処理方法について、その排煙プロセスはその主張どおりであり、排煙処理のために湿式洗煙装置、電気集じん機を設置し、窒素酸化物対策につき自動燃焼制御装置により炉内温度を摂氏九〇〇度以下に保つこととし、かつ還元二段燃焼を採用することとしたこと、以上の方法、設備により入口濃度を一系列(90t/日)につき湿り燃焼生成ガス量二三二〇〇Nm3/時、乾き燃焼生成ガス量一九三〇〇Nm3/時、水蒸気量三九〇〇Nm3/時、ガス温度摂氏三〇〇度、ばいじん濃度四・五g/Nm3、塩化水素濃度五〇四ppmとして、各種排出濃度をその主張どおり設定し(右数値は大気汚染防止法等に定める排出基準の数値を大きく下回つている。)、排煙温度を摂氏一五〇度以上と定めたこと、廃水処理については無放流のクローズドシステムを採用したことが疎明される。

2申請人らの反論に対する判断

(一) 〈証拠〉によれば、昭和五六年以降の松原市の人口及び一般ごみ排出原単位は、松原市の予測を下回ることが疎明される。

右事実によれば、現実の焼却対象ごみが松原市の予測した前記計画焼却処理量より小さくなる可能性があるけれども、これは結果的に新清掃工場からの有害物質の排出濃度、ひいては着地濃度が予測より少なくなる可能性につながるものであり、人口増加の予測はあくまでもこれまでの傾向を踏まえて行うものであり、新しい事態が加わつた場合にはその予測を上回つて増加することも予想し得るものであるから、松原市が人口増加及び一般ごみ排出原単位をやや大きく見込んだ予測は、逆の場合とは異なり、新清掃工場の稼働が環境に与える影響はそれだけ少なくなるのであつて、松原市の予測を必ずしも不合理なものと非難することはできない。

(二) 申請人らはごみ質予測が杜撰であり、そこで用いられている数値は整合性がなく、計算結果も信用できない旨主張するけれども、〈証拠〉によれば、松原市はごみ質につき昭和四二年から昭和五四年までの燃焼特性データに基づき昭和六五年の平均ごみ質を水分四五・七%、可燃分四六・八%、灰分七・五%と推定し、岩井らの式により平均低位発熱量を二〇〇〇kcal/kgとし、その際岩井らの式において可燃分中に占めるプラスチックの割合を、その後のごみ分析データの数値を用いずに、一三%と仮定したことが疎明され、それについてやや不自然さをおぼえるけれども、右平均低位発熱量は一応実績値に基づいて予測されたものであり、プラスチックごみも分別収集を行うことにより乾燥ごみ中における含有率を人為的に変えることができる余地もあることを考えると、右平均低位発熱量が不合理ともいえないこと、松原市はさらに昭和五一年八月から昭和五五年三月までのごみ分析データにより水分、可燃物、プラスチックの割合の数値を求め、これにより最高低位発熱量を二五〇〇kcal/kg、最低低位発熱量を一二〇〇kcal/kgと予測したもので、その数値が信用できないともいえないから、これらの点に関する申請人らの主張は採用できない。

(三) 申請人らは、松原市が塩化水素の排出濃度を五〇四ppm、九・七Nm3/時としたのはその発生量を根拠もなく過少に評価していること、窒素酸化物の排出濃度を一〇〇ppmとしたことは単なる期待値であるに過ぎず、このようなことから松原市が設定した排出濃度を維持することは不可能であると主張する。

〈証拠〉によれば、池田市清掃工場(昭和五八年九月竣工、六〇t/日炉三基、連続燃焼式機械炉)で排出濃度につきメーカーの保証値が、ばいじん〇・〇五g/Nm3、硫黄酸化物一九〇ppm、塩化水素五〇ppm、窒素酸化物一五〇ppmのところ、それぞれ現実の排出濃度は、ばいじんにつき〇・〇〇八ないし〇・〇〇九g/Nm3、硫黄酸化物につき二ないし一〇ppm、塩化水素につき一八ないし四三ppm、窒素酸化物につき一三三ないし一四六ppmであることが疎明され、右池田市清掃工場の保証値、実績値と対比しても松原市の排出濃度の基準は実現不可能な数値とはいえないこと、〈証拠〉によれば、昭和五一年頃に大手機械メーカーは松原市に対し前記排出濃度に近い数値につき入口濃度を限定することなく達成可能である旨表明していたことが疎明され、その後一〇年を経過した現在においてはその間の科学技術の発達を考えると、当時示した数値より若干厳しい前記排出濃度を達成、維持することは十分に可能であるというべきである。さらに、松原市は新清掃工場では排煙中の含有物質濃度、排ガス量、排ガス温度等の排出状況を測定し、また焼却炉及び公害防止設備機器の稼働状況を監視し、設定排出濃度を遵守すること、清掃工場稼働後、大気環境影響評価を検証し、大気汚染状況を監視する目的のために、大気汚染モニタリングステーションを設置して大気汚染物質の環境濃度を常時測定する旨表明していることは記録上明らかである。一方、申請人らはこれまでの排ガス洗浄装置の稼働率から見ても前記排出濃度を維持することはできないと主張し、疎甲二三二ないし二三五号証の各一、二を提出し、これらの証拠は右主張に副うかのようであるが、右証拠を仔細に検討すれば、右稼働率も工場建設時期によつてもその数値に差があり、さらに科学技術の発達を考慮すると、これまでの稼働率を根拠にして設定排出濃度の維持が不可能であるとは速断し得ないものである。

以上のとおり、松原市の設定した排出濃度は達成不可能であるとの主張は採用し得ない。

(四)  申請人らは清掃工場の廃水による被害について詳細に主張するけれども、いずれも無放流のクローズドシステムを採り得ないことを前提としているところ、弁論の全趣旨により成立の認められる疎乙一五七号証によれば、昭和五五年以降青森県八戸市をはじめ九つの工場で、松原市と同じ湿式洗煙装置とクローズドシステムを採用し、昭和六一年度に建設予定の大阪府泉南清掃事務組合等でもクローズドシステムの採用を予定していることが疎明され、いわゆるクローズドシステムは技術的に確立されたもので、原則として無放流という松原市の計画は実現可能であると認められるから、申請人らの主張は失当である。

また松原市は炉休止時に放流するのは、洗車廃水、風呂廃水、手洗廃水の生活系廃水であり、しかも廃水処理装置を経たうえ、滅菌処理されて放流する計画であることを表明しているのは本件記録上明らかであるから、申請人ら主張の農業被害発生の蓋然性は極めて小さいというべきである。

五  若林町の適地性

1〈証拠〉によれば、以下の事実が疎明される。

(一) 本件予定地は松原市の北東に位置し、敷地は二三、〇〇〇m2あり、現況は田で用途地域の指定はなく、土地利用計画作成要領記載の「附近三〇〇m内に学校病院等がないこと」の要件に合致している。松原市内のほとんどは用途地域上第一、二種住居専用地域、住居地域に指定されており、本件予定地の近くの若林町の大部分が準工業地域に指定されている。

本件予定地の東には高さ一四mのシャープスポーツセンター、南東に高さ二七mのシャープ商品センターがあり、北側は六mの堤防があり大和川が流れている。南側には少し離れて高さ七mの西名阪道路があり、西側には若林町の集落があり、少し離れて松原インターチェンジがある。

そして近くには八尾空港があり、本件予定地は航空法四九条一項の規制を受け、四一mの煙突しか建てられない地域となつている。

(二) 大阪平野は北東方面の一部が淀川に沿つて平野が延び京都盆地に連なつているけれども、北、北西には北摂の山々、六甲山地が、東側には生駒山地、金剛山地が位置し、南は和泉山地が控え、従つてほぼ三方が山地に囲まれ、西方のみ大阪湾に接し、南北にやや細長い広大な平坦部を形成していること、松原市は大阪平野の南部に位置し、大和川の左岸に接する東西約八・五km、南北約五・一km、面積一六・六km2の平坦地で、北は大阪市、八尾市に、西は堺市に、南は美原町に、東は藤井寺市、羽曳野市にそれぞれ隣接していること、大阪平野は大阪湾の影響を受け、海陸風が特徴的であり、日本列島全体が受ける夏の東南の季節風、冬の北西の季節風の影響はむしろ少ないこと、最高最低気温の較差は海岸線で少なく、北部、南東部、生駒山麓で大きくなつており、大阪平野は山間部に近いところ、海岸部、北部、中央部、南部など風向、気温その他気候に違いがあるけれども、大阪平野全体は海陸風の影響を受け、ほぼ同じ気候区域に属するといえること、特に、大和川以南で、松原市を含むその以西の地域は気候的にもかなり似ており、夏期、冬期ともに日中は西風が、夜間は東風が支配的である。そして若林町のみならず一般に大阪平野において接地逆転層の発生がみられる。

2ところで、申請人らは本件予定地が新清掃工場建設に適しない理由として次の三点を主張している。

① 本件予定地に建築される煙突等について航空法の高度制限がある。

② 本件予定地は田園地帯でその東側には高さ一四mと二七mのシャープスポーツセンター、シャープ商品センターの倉庫群が立ち並び、すぐ北側は高さ六mの堤防があり、南側は高さ七mの西名阪道路、西側は高さ八mの壁で囲まれて、いわば小さな盆地をなし、汚染物質の拡散が地形的に困難である。

③ 交通渋滞及び水害の可能性がある。

先ず、①の主張について検討するに、〈証拠〉によれば、松原市は新清掃工場の煙突として地上から四一mの実体高のものを建設する予定であることが、さらに、弁論の全趣旨により成立の認められる疎乙一一九号証によれば、本件予定地の標高は一三・四八ないし一四・一八mであることがそれぞれ疎明され、これらの事実によれば松原市の計画するとおり煙突実体高を四一mとすることが可能であることは明らかである。申請人らは、有効煙突高さが高くなれば一般的には拡散される煙の範囲は広範囲となり、通常汚染物質の最大着地濃度は有効煙突高さの二乗に反比例するといわれていること、しかし、煙の上昇高さを決定するきめ手はなく、ある条件の時には煙の上昇高さが零である状態が続くこともあり、それゆえ煙突の実体高が重要であること、大阪市においては新しい工場の煙突実体高は全て一〇〇mに近く、昭和四八年以降昭和五四年までの間に全国で新しく建設された清掃工場の施設のうち、新清掃工場と同程度の処理能力を持つ工場で煙突の実体高が四一m以下のものはない旨主張する。

しかし、〈証拠〉によれば、豊中市・伊丹市清掃施設組合の清掃工場では煙突実体高が四五m、堺市第一及び第三清掃工場では煙突実体高がいずれも五〇m、茨木清掃工場では四〇m、四条畷市・交野市清掃施設組合では四〇m、柏原市・羽曳野市・藤井寺市清掃施設組合では四五m、昭和五八年に建設された前記池田清掃工場では三四mであることが疎明される。申請人らは特に大阪市における清掃工場の煙突を取り上げて比較するけれども、大阪市と松原市の人口密度、建築物の高さ及び密集度、環境汚染度等が相違することを考慮すると大阪市のそれと比較するよりも、大阪府下のそれと比較するのがむしろ合理的であり、前記事実によれば、松原市が計画している煙突の実体高四一mという数値はそれほど特異の数値といえないものである。

次に、②の主張について検討するに、シャープ体育館、シャープの倉庫等を除くその余の堤防等の高さは六ないし八メートルであり、その数値自体から見ても空間を仕切る障壁となり得るものでないことは明らかである。また申請人らは西名阪自動車道路等の通行量は昭和五七年五月の時点においても一三万五〇〇〇台/日に達しており、そこに発生する熱そのものが一種の空気の壁を造る旨主張するけれども、そのような現象が生ずることを疎明するに足る証拠は存しない。

本件予定地において排煙の拡散に影響を与えるものは申請人らが主張するシャープの建物の他に煙突それ自体と新清掃工場の建屋が考えられる。

〈証拠〉によれば、煙突自体がもたらす影響はダウンウォッシュと呼ばれているものであるが、ダウンウォッシュは煙突の形状、建物との位置関係その他を考慮することにより、その発生をかなりの程度抑制することが可能であることが疎明される。

次に、〈証拠〉によれば、新清掃工場の建屋の高さが二一mであることが疎明されるところ、〈証拠〉によれば一般に、建物が排煙の拡散に影響する現象はダウンドラフトと呼ばれており、その影響を与える限度を示すものとしていわゆる二・五倍則(煙突の実体高が建物の二・五倍以上であれば排煙の拡散に影響しないとする法則)が存することが疎明され、右法則によれば右建屋についてダウンドラフトの影響が生ずることは否定しえない。しかし、右建屋と煙突の配置については適宜定めることができるものであり、建屋に対して煙突をできるだけ北側へかつ東側へ位置させるならば煙突、建屋、若林町の集落の位置関係に照らし若林町の大気環境に影響するダウンドラフトの発生を容易に防ぐことができることは後記のとおりである。

シャープの建物について検討するに、申請人ら主張の高さ一四mの建物については前記の二・五倍則からダウンドラフトが生じないものと考えられる。しかし、前記二七mの建物については影響が出てくることは十分予想しうるところ、〈証拠〉によれば、松原市の依頼を受けた三菱重工業株式会社は風洞実験を行い、その結果、工場建屋の南側に煙突を配置した場合、風速10m/秒のときにややダウンドラフトが発生したこと、しかし、煙突の頂上部で10m/秒の東南系の風の吹く割合は極めて小さいことが疎明され、その頻度及び程度からみるとダウンドラフトが若林町の大気環境に与える影響は極めて小さいものと考えられる。また〈証拠〉によれば、工場建屋の北側に煙突を配置した場合には風速の大きさにかかわらずダウンドラフトが発生しないことが疎明され、右結果は新清掃工場の建屋そのものによつてはダウンドラフトは生じないことを示すものということができる。

以上の事実に基づいて検討すれば、煙突の位置を本件予定地のできるだけ北側にかつ東側に配置した場合には若林町の大気環境に影響を与えるダウンドラフトの発生をほとんど防ぐことが可能であるというべきである。なお、フュミゲーションが本件予定地に特有の現象であることを認めるに足りる疎明はない。

③について検討するに、交通渋滞や水害の可能性は後述のとおりそのおそれはない。

3以上のとおり申請人らの主張は採用できず、松原市の、本件予定地は準工業地域の近くでごみ収集車の搬入が住居密集地を避けうる上、工場からの排水可能な落堀川に面し、土地利用計画作成要領記載の前記要件に合致し、用地として約二三、〇〇〇m2を確保できる場所であり新清掃工場に適しているとの主張もあながち不合理とはいえない。昭和五六年一〇月以降松原市の実施した本件予定地における気象観測(弁論の全趣旨により成立の認められる疎乙九六ないし九九号証、同一〇一号証)及び風洞実験結果(前記疎乙一〇〇号証)においても本件予定地が不適であるとする結果は得られなかつた。

なお、申請人らは松原市が十分な環境アセスメントを実施していないことにより直ちに新清掃工場の建築が違法となるかのように主張するが、現行法上有害物質の排出が不可避な施設を設置する者に右評価義務を課したと認められるべき法的根拠は存在しないばかりか、松原市においても気象観測、風洞実験をなし一応の環境アセスメントを実施しており、申請人らの右主張は採用できない。

六  新清掃工場の稼働に伴う大気汚染の発生ないしその危険性

公害等の差止請求において相手方の行為により受忍限度を超える被害を受ける蓋然性の存在の立証責任は、これを主張する側にあるところ、本件のように新清掃工場が建築操業される前にその差止めを求める、いわゆる事前差止めにおいては、大気汚染の被害発生の予測は被害が現実化していないこと及びその予測の方法が定まつていないこと等によりきわめて困難であるが、その判断の際大気汚染防止法等に定める排出基準、あるいは後記環境基準は受忍限度を判断する際の一つの目安となりうるものであるということができる。

1環境基準について

大気汚染防止法は、排煙につき、その排出時における有害物質の濃度のみを規制し、その余については規制をしていない。

一方、公害対策基本法九条は、「政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準を定めるものとする。」と定め、これに基づき環境庁告示、通達により、いわゆる環境基準が定められている。

各有害物質についての環境基準は左のとおりである。

① ばいじん 〇・一mg/m3(一時間値の一日平均値・以下「日平均値」という。) 〇・二mg/m3(一時間値)

② 二酸化硫黄 〇・〇四ppm(日平均値)〇・一ppm(一時間値)

③ 二酸化窒素 〇・〇四ないし〇・〇六ppm(日平均値)

なお、塩化水素については環境基準は定められていないが、都市ゴミ焼却処理施設排出ガス(塩化水素)規制検討委員会報告は〇・〇一ないし〇・〇三ppm(一時間値)を環境基準として設定している。

2大気汚染の現況(いわゆるバックグランド濃度)

〈証拠〉によれば、松原市は昭和五六年一〇月から同五七年九月までの一年間本件予定地において、気象観測、大気質濃度の観測を行つたこと、右観測結果によれば、二酸化硫黄の一時間値の九八%値は〇・〇二九ppm、年平均値〇・〇一〇ppm、日平均値の九八%値は〇・〇二一ppm、二酸化窒素につき同様に〇・〇六四ppm、〇・〇二六ppm、〇・〇五〇ppm、ばいじんにつき〇・一三二mg/m3、〇・〇五七mg/m3(疎乙九六号証二〇頁に〇・〇三八とあるは前記疎乙九七号証に照らし、誤記と認める。)、〇・一〇四mg/m3であつたことが、それぞれ疎明される。申請人らの実施した窒素酸化物の測定結果(疎甲一一六号証、弁論の全趣旨により成立の認められる疎甲一三三号証)は測定日も古く、また測定方法も明確ではないので右結果の存在は、前記認定を左右するものではない。

3新清掃工場の稼働に伴う大気汚染の予測

(一)  申請人らと松原市はそれぞれ大気汚染の予測を行つているけれども、松原市は新旧マニュアルの手法に基づいて年平均値の長期濃度予測を行い、大気環境の評価をまとめており、短期高濃度予測についてはフュミゲーション、ダウンウォッシュ、ダウンドラフト現象についてそれらの発生の頻度等について考察し、その影響を評価している。一方、申請人らは短期高濃度が生じるフュミゲーション、ダウンウォッシュ、ダウンドラフト現象に注目し、個々の実測値を採用して短期高濃度を予測し、これらの数値から年平均濃度への寄与を推測するとして長期濃度を予測しており、両者の予測の仕方はその手法において極めて対称的である。

新マニュアルは、「大気汚染予測手法の現状ならびに発生源及び気象に関して実際に得ることができる情報の精度のレベル等を総合的にみれば、予測可能な環境濃度は、年平均値等長期間の平均濃度とせざるを得ない」としており、〈証拠〉によれば、短期高濃度予測については現時点においてその予測方法として確立されたものがないとされていることを考えると、申請人らの主張する予測方法を採用しなければならないものではなく、新旧各マニュアルが現時の科学的知見の集大成であることに鑑みれば、松原市が右各マニュアルに従つて行つた予測が不合理なものとはいえない。

(二) 長期濃度予測

〈証拠〉によれば、松原市は、新旧マニュアルの手法により、松原市主張のとおり計算条件を定め、有効煙突高さを計算し、拡散計算をした結果(いずれも年平均値の最大着地濃度)は次のとおりであることが疎明される。

〈ケース一 排出ガス量最大稼働時四四六〇〇Nm3/時、藤井寺データ、旧マニュアルによる有効煙突高さ、上空風速換算係数P値〇・五、旧マニュアルによる拡散計算〉

二酸化硫黄 〇・〇〇〇二〇ppm

二酸化窒素 〇・〇〇〇三九ppm

塩化水素 〇・〇〇〇一三ppm

ばいじん 〇・〇〇〇二〇mg/m3

〈ケース二 排出ガス量平均処理時三六五〇〇Nm3/時、新マニュアルによる有効煙突高さ、P値〇・三、新マニュアルによる拡散計算〉

二酸化硫黄 〇・〇〇〇〇七ppm

二酸化窒素 〇・〇〇〇一四ppm

塩化水素 〇・〇〇〇〇五ppm

ばいじん 〇・〇〇〇〇七mg/m3

〈ケース三 若林データを用い、その余はケース一と同じ、以下ケース六まで二酸化窒素のみ計算〉

〇・〇〇〇二一ppm

〈ケース四 藤井寺データによる他、ケース二と同じ。〉

〇・〇〇〇一四ppm

〈ケース五 拡散パラメータにつき初期拡散幅を考慮した他、ケース二と同じ。〉

〇・〇〇〇一六ppm

〈ケース六 拡散パラメータにつき、安定度を一ランク不安定側とした他、ケース二と同じ〉

〇・〇〇〇二二ppm

なお、ケース五は、新マニュアルにより初期拡散効果を考慮したものであり、同六は、旧マニュアルにより、都市、工場地域に特有な拡散を考慮したものである。

(三) 短期高濃度の予測

(1) フュミゲーション

前記疎乙七七号証によれば、フュミゲーション時における濃度をホランドモデルにより予測したところ、煙源から八二〇mの地点で、二酸化窒素〇・〇四九ppm、二酸化硫黄〇・〇二四ppm、塩化水素〇・〇一六ppm、ばいじん〇・〇二四mg/m3の値を得たことが疎明される。

(2) ダウンドラフト、ダウンウォッシュ

本件予定地においては新清掃工場の建屋に対し煙突をできるだけ北側にかつ東側に配置した場合には若林町の大気環境に影響を与えるダウンドラフトはほとんど発生しないことは前記のとおりであり、前記乙一〇〇号証(風洞実験報告書)によれば、排ガス速度を二六m/秒とした場合ダウンウォッシュの発生限界風速は、一〇m/秒であることが疎明される。

(四) 森住明弘の行つた予測について

〈証拠〉によれば、森住明弘は、疎甲一九六号証(「建物の拡散におよぼす影響 その1 孤立した建物」と題する小川靖による論文(以下「小川論文」という。))から、ダウンドラフトが生ずる場合には、地上濃度と煙流中心との濃度比が一対二・一五となり、前記風洞実験からは風速六m/秒でダウンドラフトが生ずるとし、この場合有効煙突高さを実体高の四一m、拡散幅に鉛直方向につき安定度A、水平方向にDを用いてダウンドラフト時の最大着地濃度を〇・〇三四ppm(新清掃工場からの距離二五〇m)と予測し、この予測値は排出濃度の約二〇〇〇分の一であり同人が高槻市で行つたばいじんの希釈率(排出濃度と着地濃度の比)に関する実験結果及び小牧市の行つた稼働中の焼却場排煙の拡散に関する実測結果から導き出される希釈率約二〇〇〇分の一と符合する、またA市(津島市)及び小牧市の行つた拡散実験からの換算値とも符合するとしている(以下「森住意見」という。)。

そこで、右森住意見について検討する。

前記疎甲一九六号証(小川論文、なお成立につき争いがない。)によると小川靖は、三次元の建物背後に生ずる渦には屋根によるものと側面より生ずるものとがあるが、その測定は困難なため、屋根から生ずる渦の影響を取り上げ、二次元の建物モデルとして考えるものとし、煙源は風向きに直角な線源、建物は風洞横幅いつぱいのフェンスを用いて実験したもので、この実験結果は点煙源かつ三次元の建物が存在する場合に、そのまま妥当するものではないと考えられる(なお、森住意見は、右論文のFig2なる図から地上濃度と煙流中心軸の濃度比が一対二・一五であるとするのであるが、右図中はもちろん論文全体を見ても、各点の測定値そのものの記載はなく、また図の目盛から、具体的にいかなる数値を読みとつたのか森住意見からは明らかでなく、右濃度比自体に疑問がないではない。)。

また高槻市における実験結果について、森住意見は希釈率を考えるにつき、地上濃度から控除すべきバックグランド濃度を掲げているが、この数字の根拠は不明であり、また希釈率につき一一〇〇ないし一〇三〇〇倍までのばらつきがあり(いずれも疎甲二〇九号証参照。)、これを平均した希釈率二〇〇〇分の一という数字が妥当かどうか疑わしい。

また、小牧市における焼却場排煙の拡散の実測結果につき、同じく地上濃度から控除すべきバックグランド値を窒素酸化物濃度の水平分布なる図から読みとつたとしているが(疎甲二三六号証参照。)右図面には地上濃度の記載はあるものの、バックグランド濃度の記載はなく、バックグランド濃度とする数字の根拠は不明である。

またA市及び小牧市の拡散実験結果からの換算については、〈証拠〉によれば、他都市の実験結果からの換算については、有効煙突高さのとり方、平均化時間の考慮などにより、より低い数値となりうることが疎明される。

以上のとおり、森住意見には、その妥当性を疑わせる点がいくつか存在し、この森住意見を根拠とする新清掃工場稼働に伴う大気汚染の可能性に関する申請人らの主張は採用の限りではない。

(五) 環境影響評価

若林町における新清掃工場の稼働に伴う長期濃度の予測結果の各予測値はいずれも環境基準により二桁ないし三桁下の値であり、新清掃工場稼働が若林町の大気環境に与える影響は極めて小さいものと思われる。

短期高濃度をもたらす可能性のあるダウンドラフト、ダウンウォッシュについては、その発生頻度そのものが低いうえ、発生を防止する方策が存在することは前記のとおりである。

またフュミゲーションについても、若林町で接地逆転層が発生することは疎明されたものの、前記認定の若林町を含む松原市の地形的特性に、〈証拠〉を総合すれば、右接地逆転層は、太陽の出没に伴う放射に起因するいわゆる放射性逆転と呼ばれるものであり、一般によくみられる現象であつて若林町に特異なものではないことが疎明され、右のようないわば日常的に発生する接地逆転層が解消する場合にも、申請人らの主張する高濃度の汚染が生ずるフュミゲーションが発生することについては、これを疎明するに足る証拠は存在せず、若林町における接地逆転層とフュミゲーションの発生、それによる高濃度の汚染については双互の関係が本件疎明上明らかでなく、逆転層が存するといつて直ちにフュミゲーションにより受忍限度を超える被害が発生するということはできず、申請人らの主張は採用できない。

七  本件清掃工場建設、稼働に伴うその他の被害について

1悪臭、振動、騒音、低周波

悪臭

〈証拠〉によれば、ごみ焼却場からの悪臭発生原因としては、ごみ貯蔵のためのピット、ごみ運搬車、排煙があること、悪臭防止対策としては、ごみ運搬車は閉扉状態で運搬する、ごみ投入場にはシャッターとエアカーテンを設ける、ごみ投入口には自動扉を設ける、ごみピットには焼却用空気吸込口を設ける、排煙につき臭気成分が分解する温度以上で燃焼させる、建物を密閉構造にし、負圧状態にするなどの方法があり、いずれも技術的に確立されたものであることが、また、〈証拠〉によれば、松原市としてはごみ運搬車は密閉式とし、工場の運搬車出入口以外は密閉のうえ、エアカーテンを設け工場内を負圧状態にし、ピット内の空気は燃焼用に炉内に送り込み、高温で燃焼させる等の悪臭防止対策を講じる予定であることが疎明され、右悪臭防止対策がなされれば悪臭は相当程度防止できるものと認められる。

振動・騒音、低周波

〈証拠〉によれば、一般論として、ごみ焼却場の稼働により、振動・騒音・低周波が発生することが窺われるものの、新清掃工場の稼働による被害が具体的にいかなる程度のものであるかについて疎明するに足る証拠は存在せず、〈証拠〉によれば、松原市は焼却機械等を建物の中に入れ、騒音、振動等を防ぐ構造にする予定であることが疎明され、受忍限度を超える騒音・振動等が新清掃工場から発生するとは認められない。

2交通渋滞、交通事故

〈証拠〉によれば、松原市が新清掃工場へのごみの搬入路として予定している府道大阪羽曳野線は交通量が多く、交通渋滞が発生していること、その主な原因は、老朽化した明治橋で一車線交互一方通行の規制が行われているためであることが疎明されるものの、〈証拠〉によれば、昭和六三年には右明治橋の下流約四〇〇mに大阪府が現在建設している対面二車線の新橋が完成予定であつて、これにより交通渋滞は緩和されるであろうことが十分予測し得る(なお、右に反する疎甲二四〇号証の記載部分は具体性に欠け採用することができない。)。

また、ごみ運搬車が通行することにより当然に交通事故が増大するものともいえず、これを具体的に疎明するに足る証拠もない。

従つて、交通渋滞の悪化、交通事故の増加に関する申請人らの主張は理由がない。

3浸水時に生ずる被害

〈証拠〉によれば、落堀川は平常は大和川に流入しているところ、大雨で大和川の水位が上ると、大和川から落堀川に逆流し、落堀川の水位が上るため、若林町は水害をうけやすく、昭和五七年八月一日及び三日には、本件予定地及び予定搬入路である府道大阪羽曳野線の一部が冠水したことが疎明される。

しかしながら、〈証拠〉によれば、昭和五七年八月の水害は、総雨量がそれぞれ一一〇・五mm(一日)、一七〇mm(二日から三日にかけて)という集中豪雨によるものであり、本件予定地のみならず、松原市全域で被害が発生したこと、しかしながら昭和五九年六月二日、松原市大堀町で落堀川と合流し、大和川に注いでいる東除川(川幅が狭く、急角度のため、大雨により大和川の水位を上昇させ水害の一因となつていた。)の放水路の通水が開始され、大和川との合流点が一・五km下流となつたため、若林町を含む落堀川流域の治水が改良され、総雨量一一二・五mmに及んだ昭和六〇年六月二五日にも落堀川からの被害はなかつたことが疎明される。

申請人山内甚治は同日藤井寺市からの水で、本件予定地付近の溝があふれたと供述するが、前記疎乙一五七号証の記載に照らし採用することができない。

以上のとおり、浸水による被害のおそれについては、前記東除川放水路の完成により一応解消したものと認められる。

4若林町の発展阻害

新清掃工場が、いわゆる嫌悪施設であることはいうまでもないが、新清掃工場の公共性及び前記の松原市が新清掃工場を建設することの必要性に鑑みれば、若林町の発展阻害は、新清掃工場の建設等を差止める理由とはなり得ない。

5無機水銀

〈証拠〉によれば東京都立公害研究所は、都内多摩地区のごみ焼却場の煙突から一日二〇ないし三〇回、排ガス一m3あたり一ないし五mgの水銀が排出されているとの調査結果を発表したこと、右水銀は水銀電池の燃焼により発生したものと考えられること、しかしながら水銀電池の燃焼により発生する水銀は無機水銀で毒性が低く、かつ水銀の着地濃度は排出濃度の一万分の一であつて、人体に対する影響は今のところ現れていないことが疎明される。

右によれば、水銀の発生による大気汚染の蓋然性は否定できないものの、この汚染により申請人らの健康への悪影響その他、何らかの被害が生ずるであろうことまでも疎明するに足る証拠は他に存在しない。

6ダイオキシン

〈証拠〉によれば、愛媛大学農学部の調査した松山市他九か所のごみ焼却場の残灰から最も毒性が強いといわれる2・3・7・8四塩化ダイオキシンが検出されたこと、右ダイオキシン発生のメカニズムからすると、右十か所のケースは特異なものといえず一般にごみ焼却場の残灰中にダイオキシンが含まれる可能性があることが疎明される。しかし、右疎明資料によれば、右ダイオキシンは摂氏七〇〇度で壊れる割合が高くなり、摂氏一二〇〇度では完全に分解されることが判明しており、残灰に右ダイオキシンが含まれていることが判明した以上、残灰を高温で処理するなど適宜の処理が考えられるのであつて、前記事実のみではいまだ新清掃工場建設差止めの理由とはなし難いものである。

7複合汚染

申請人らは窒素酸化物、硫黄酸化物、塩化水素、ばいじん、光化学スモッグ、ダイオキシン、水銀等の複合汚染を主張するが、個別には受忍限度を超える被害をもたらすほどでないことは前記のとおりであり、また、かかる物質が総合された場合に受忍限度を超える複合汚染が発生することを認めるに足りる疎明はない。

八なお、申請人らは代替措置、代替地の存在を主張する。申請人らも主張するように航空法の適用のない代替地が他に存在するならばそこに四一mより高い煙突を建てることが可能となり、排出する煙の拡散のためには効果があることは既に述べたとおりであるけれども、本件予定地に新清掃工場を建設することにより申請人らに受忍限度を超える被害の生ずることが疎明されない以上、松原市が隣接自治体と共同してごみ処理を行うための努力をしなかつたことあるいは航空法の規制を受けない代替地が存在することが直ちに本件予定地における新清掃工場の建設を違法たらしめるものとはいえない。

第二  大阪府に対する申請について

申請人らの主張は、大阪府が松原市と共同して新清掃工場建築の準備行為をなしていることを理由に、補助金交付決定により定まつた金銭債務の履行という事実行為たる補助金交付行為そのものの差止めを求めるものと解されるところ(その余の行為の差止めについては、対象となる行為の具体的な主張がない)、仮に大阪府が松原市の新清掃工場建築の補助金の交付をなすとしても、前記のとおり右新清掃工場により申請人らに受忍限度をこえる被害が発生するおそれが疎明されないのであるから、申請人らの大阪府に対する右行為の差止めの申請が理由のないことは明らかである。

第三  結論

以上のとおり、申請人らの主張はいずれも理由がないから、本件申請を却下し、申請費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官德永幸藏 裁判官丸地明子 裁判長裁判官安齋隆は転官のため署名押印できない。裁判官德永幸藏)

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